風呂上がりの格好のまま洗濯物をたたんでしまう それには理由がある

中島美鈴
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 優先すべきことは明らかなのに、なぜかそれ以外のことをしてしまう、むしろせずにはいられなくなる時、ありませんか? この謎の現象について、臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

早く服を着ればいいのは、わかっているけど

 先日、ADHD傾向を自認している友人にこんなことを聞かれました。

 「私ね、お風呂上がって、すぐにパジャマを着たらいいのに、裸のまま、なにかし始めるのよね。これ、何現象?」

 私も身に覚えがありすぎました。

 ADHDの時間管理グループに参加されている方々からも、「待ち合わせの時間に遅れないように、早く起きて準備しているのにもかかわらず、出かける直前に、たとえば洗面所の掃除とか、ゴミを捨てるとか、なにか気になってしまうとそれがやめられなくなって、結局遅刻する」という謎の現象を聞くことが多くあります。

 ADHDあるあるなんじゃないですか、といろんな人から言われます。

 この二つの謎の現象には共通する背景がありそうに思います。

 一見違う場面の別々の現象に見えますが、おそらく思考回路はこんなかんじです。

 ①風呂からあがったタイミングで、たまたま脱衣所にあった洗濯物が目に入る。

 ②このタイミングでたたんでしまわず、後回しにすると急激にやる気がなくなり、絶対たたまない自分をこれまでの経験から知っている。(衝動性で飛びつく説も考えられるが、ゲームやインターネットをしたいほどの誘惑が洗濯物にあるとは到底考えにくい)

 ③だったら、このタイミングを逃すわけには行かないんだ! たとえ今、裸であっても。

 ④いざ始めてしまうと、素早く片付いていくので、快感もある。

 ⑤つまり、この裸で洗濯物をたたむ状況は、「先に服を着てたたむほうが、からだも冷えないし、髪からしずくも垂れないし、明らかに効率がよいことが、頭ではわかっている」。しかし、「これを逃すともう二度とやる気と巡り合えないことを熟知しているからこそ、やめられない」という葛藤の末のものなのである。(完)

 どうでしょうか?

いつやるの? いまです

 もうひとつの「早起きしたのになぜか遅刻しちゃう」パターンもこう分析できます。

 ①朝起きてから出かけるまでの支度をしている間に、ふと、鏡の汚れが目につく。

 ②この鏡掃除をしてしまわないと、私は当分鏡が汚いまま過ごしてしまうだろう。また帰宅してから掃除しようなんて、マメさはないのだ。第一、帰宅する頃には、間違いなく鏡のことなんて忘れている。

 ③だったら、このタイミングを逃すわけには行かないんだ! たとえ今、遅刻しそうな時間であっても。

 ④さらにいざ始めてしまうと、どんどんきれいになっていくので、快感もある。

 ⑤つまり、この遅刻しそうにもかかわらず、鏡掃除をしてしまっている状況は、「今急ぐべきだし、鏡掃除を後回しにして出発したほうが、待ち合わせの相手からの信頼も裏切らずに済むことが、頭ではわかっているのだ」。しかし、「これを逃すともう二度とやる気と巡り合えないことを熟知しているからこそ、やめられない」という葛藤の末のものなのである。(完)

 いかがでしたか?

 みなさんにはこうしたこと、ありますか?

 こうして分析すると、どの時点で別のコースに切り替えるかを考えやすくなります。

「待った」をかけるタイミングはどこ?

 たとえば、①の「ふと、目につく」のを阻止してしまうやり方もいいでしょう。でも「洗濯物」がない代わりに、今度は洗濯機の汚れが目についたり、「鏡の汚れ」の代わりに、白髪や枝毛探しに時間を費やしてしまったりするかもしれません。あまり現実的ではありません。

 それでは、②の「今しないと、一生しないんじゃないか」という不安の時点では、ストップがかけられそうでしょうか?

 少なくとも、④の快感を伴う時点よりはまだブレーキをかけやすい段階です。最初の介入ポイントはここでしょう。合言葉を決めておきます。

 「今しないと、たぶん一生しないのは確か。でも少なくとも服着る数分ならまだ鮮度は落ちないよ」

 「今しないと、たぶん一生しないのは確か。でも、遅刻したら、信頼を取り戻すのはほんと大変だよ」

 なにか自分を落ち着かせる一言を用意して起きます。

 それでもモヤッとすると思うんです。そこで、③の「このタイミングを逃すわけには行かないんだ!」と決意する代わりに、「また私がこの洗濯物が嫌でも視界に入って、片付けざるを得ない場所に移動しよう!」と行動を起こしてください。そしていつものくつろぐダイニングの椅子でも、なんならテーブルの上にでも、廊下の真ん中でもいいので移動してください。そのことで、先延ばしされる確率はぐっと減ります。そして、また新たな場所で、新たな形で、洗濯物と出会えるのです。新たに出会えば鮮度は高いので、きっとまたやる気が起きます。

 鏡の掃除の場合には、この移動作戦は使えませんね。使うたびにさっとタオルで拭いてしまって、洗濯するといった「そのつど掃除」の対象にしてしまうか、「鏡が多少汚れていても死ぬわけじゃない」と開き直るかどちらかにしてしまいしょう。

 今度また自分の「なぜか、効率悪いのに、これしちゃってる」現象に出会ったときには、ちょっとおもしろがりながら自分を観察してみましょう。

 そして努めて冷静に、もうひとりの自分で突っ込んであげてくださいね。

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中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。