「女性だから」の枠、笑いで超越 さくらももこの世界が今へ語るもの

有料会員記事

河合真美江
写真・図版
さくらももこさんは「ちびまる子ちゃん」をはじめ、多くの個性的なキャラクターを生み出した(C)M.S
[PR]

 いきなり水虫の話である。闘ったのは16歳の夏。さくらももこさんは地元、静岡県清水市(現・静岡市)の名産を使った療法を試して完治する。「奇跡の水虫治療」が冒頭を飾るエッセー『もものかんづめ』。初めて読んだときの衝撃は忘れられない。水虫も腸の検査も高校時代の乙女なポエムも、常識的にハズカシイことが包み隠さず繰り出される。父も母もジィさんも素顔で出てくる。

 漫画「ちびまる子ちゃん」が1990年にアニメになり、「♪ピーヒャラ ピーヒャラ」と国民的人気になった翌年に刊行。たちまちベストセラーに躍り出た。

写真・図版
もものかんづめ(集英社文庫)(C)さくらプロダクション

『もものかんづめ』は単行本、文庫の累計で286万部。毎年2、3回重版が入り、多いときは6回の増刷がある。読者は10代から年配までと幅広い。初期のエッセー3部作の『さるのこしかけ』が累計193万部、『たいのおかしら』が同166万部。

 「この本を読んで、まるちゃんじゃなくて、さくらももこさんという人が本当にいるんだと。近所にいてほしいお姉さんという親しみを感じた」。そう話すのは、お笑いトリオ森三中の大島美幸さん(41)。全作品を読み、さくらさんとも交流があった。

 中でも『もものかんづめ』が大好き。ここまで自分をさらけ出し、実生活をテンポよく面白く表現しているエッセーは読んだことがない、という。たとえば、短かった会社員時代を描いた「宴会用の女」。歓迎会や花見での芸を期待されて雇われていたとは……。

 マイナスの出来事も笑いに変え、プラスに昇華させる。さくらさんの描き方だ。それは大島さんの笑いの芸につながる。「自分の醜いところも隠さずに、喜怒哀楽を全部出す。そういう芸人でいたい」

 発刊の91年といえばバブル崩壊のころ、一世を風靡(ふうび)したディスコのジュリアナ東京が生まれた年。お立ち台で扇を翻し、体にフィットするボディコンの装いで女性たちが舞い踊った。そんな時代に送り出された、日常の赤裸々なエッセーが人気を博したのはなぜか。

写真・図版
『もものかんづめ』の「宴会用の女」の章についた、さくらももこさんのイラスト(C)さくらプロダクション

さくらももこさんのエッセーが当時の社会に与えた衝撃と気づき、そして今なお受け取れるメッセージとは? 記事後半では、研究者やTARAKOさん、イルカさんらゆかりの人たちの話を交え、あらためてその魅力を味わいます。

 「大人が言わないでおこうと…

この記事は有料会員記事です。残り2664文字有料会員になると続きをお読みいただけます。