菅首相の会見、質問の指名に偏り 成立しない質疑も続々

永田大
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 10月初旬に退任する菅義偉首相は、「説明責任」のあり方を問われ続けた。記者会見の方式や対応もその一つだ。昨年9月の就任から官邸で計19回の会見に臨んだが、質問に正面から答えないなど、質疑がきちんと成立しないケースが続いた。会見での指名回数も大きな偏りがあった。

 首相の記者会見は、安倍前政権下の昨年4月以降、新型コロナウイルス感染防止の臨時的措置として、全国紙や在京テレビ局などで構成する「内閣記者会」の常勤幹事社19社と、抽選で選ばれるフリーランスら10人の計29人に出席者が限られている。

 質疑は、まず幹事社2社が代表で質問を行い、その後、挙手による一般の質問に続く。会見時間は毎回1時間程度で、昨年4月以降、指名されなかった記者には文書による質問も認められている。

指名回数に偏り 理由は不明

 朝日新聞の集計で、計19回の首相会見で、菅首相が質問を受けたのは代表質問を含めのべ227人。1回の会見で5~16人を受け付けた。常勤幹事社で、一般の質問ができた回数が最も少なかったのは東京新聞の1回(代表質問は4回)で、朝日新聞は2回(同2回)だった。最多はNHKの12回(同1回)だった。

 朝日新聞などは毎回、挙手しているにもかかわらず、指名される回数に極端に差が出るのはなぜか。指名している小野日子内閣広報官に文書で理由を尋ねた。官邸報道室長名で「挙手の状況、内閣記者会とフリーランス等のバランスなどを勘案して、内閣広報官が指名しています」との回答があったが、具体的な理由は不明だ。

 首相が質問の趣旨と異なる回答をする質疑も頻発している。ただ、記者の再質問を内閣広報官が遮り、首相の「言いっ放し」で終わることが多い。朝日新聞を含む加盟社有志は、こうした運用などの見直しを求めている。

「ぶら下がり取材」や国会審議でも

 首相は記者会見のほかに、官邸のエントランスホールなどで短時間、記者団と立ったままやりとりする「ぶら下がり取材」を計136回受けた。その頻度は、安倍晋三前首相と比べても格段に多い。だが、ぶら下がりでは、一方的にメッセージを発して、その場を後にすることもしばしばだ。自民党総裁選への立候補見送りを表明した今月3日も、最初の質問に理由を語っただけで、追加の質問を受けつけなかった。

 首相は記者会見だけでなく、国会での説明にも後ろ向きな対応が目立った。6月9日の党首討論を最後に国会審議の場に出ていなかった首相に対し、野党は7月、憲法53条に基づいて臨時国会の召集を求めた。だが、政府与党はこれに応じず、首相は臨時国会で質疑に立たないまま退任する見通し。長期間にわたって召集要求に応じない政権の対応について、専門家からは違憲性を指摘する声が出る。(永田大)

「対話」に向いていない政治家 記者側にも問題

 元鳥取県知事片山善博・早大大学院教授の話 政権トップの首相は、国民に「これは知ってもらいたい」ということを、会見で説得力をもって説明することが本来の姿だ。だが、特に安倍前政権以来、首相に説明責任をきちんと果たそうという意思が見られなくなったように思う。菅首相は反論されることを毛嫌いする場面がたびたびあり、「対話」に向いていない政治家だ。官房長官時代も、まともに質問に答えていなかった。首相になる前から分かっていたことで、それを許してきた記者の側にも問題がある。

 私は8年務めた鳥取県知事時代、週に1回、午前9時半から会見した。質問が尽きるまで行ったので午前中の予定は、ほかに入れなかった。政治家が会見などで説明し、国民が納得に至る。それが民主主義のプロセスだ。時間を制限するようなことは、都合のいい質問だけを受けることにつながりかねない。