交差する映像とまなざし ピピロッティ・リストが試みる「集団体験」
大野択生
ハンマーを手にした女性が軽やかに歩き、路肩の車列の窓ガラスを次々に打ち割っていく。四つんばいで草原を歩く女性がリンゴにむしゃぶりつく。スイス出身の映像作家、ピピロッティ・リスト(1962年生まれ)は、そんな作品を送り出してきた。そして、個展の会場で作品を鑑賞した人たちは、思わぬ経験をすることになる。
スイスのグラブズという自然豊かな地に生まれたリストは、ウィーンやバーゼルでビデオアートなどを学んだ。初期の作品には女性の身体をテーマにしたものが多い。「わたしはそんなに欲しがりの女の子じゃない」(86年)は、ビートルズの楽曲「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」の歌詞の一節「She’s not a girl who misses much」の「She’s」を「I’m」に入れ替えてリスト本人が踊りながら歌う。
水戸芸術館現代美術ギャラリーで開かれている個展は、初期から近作まで約40点を集めた。

冒頭に登場する「永遠は終わ…