特許技術の使用求め裁定請求 iPS細胞初移植の高橋政代氏
iPS細胞から作った網膜の細胞を世界で初めて患者に移植した、高橋政代・元理化学研究所プロジェクトリーダーが代表を務める会社が、目の細胞の製造方法の特許をもつ理研と、バイオベンチャーのヘリオス(本社・東京)などに対し、特許の技術を使わせるよう経済産業相に裁定を求めた。高橋氏が28日、取材に明らかにした。
裁定を求めたのは、ビジョンケア(本社・神戸市)とその関連会社「VC Cell Therapy」(同)。対象にしている特許は高橋氏が発明者の一人で、網膜の細胞を大量につくるにあたって重要な技術に関するもの。当時高橋氏が所属していた理研が、ヘリオスとの間で特許契約を結んだ。高橋氏はその後理研を退職し、現在はこの技術を自由に使えない状態になっているという。
高橋氏によると、網膜の細胞を目の難病の患者に移植する治療の展開をめざしてこの技術を発明した。特許契約により、ヘリオスが治験を進めると期待していたが、同社は治験を始めていない。そこで、自分たちで治験を進めたいと考え、数年にわたり協議を求め続けたが応じなかったという。高橋氏は正当な対価のもと、特許の技術を使わせてほしいとしている。
「私たちはそれぞれの患者に最適な治療を開発できると自負しているし、計画はある。患者も待っている。そのために自分たちがつくった特許を機関の契約によって使えないというのは公益的に問題ではないか」
他の産学連携に関わる特許トラブルについても、情報を集めているという。
請求に対して朝日新聞がコメントを求めたところ、理研は「今後、関係者間での協議を含め、定められた手続きにのっとって対応いたします」、ヘリオスは「現在裁定手続き中のため、当社からの回答は差し控えさせていただきます」などとそれぞれ答えた。
高橋氏は2014年、大幅な視力低下の恐れがある目の難病「加齢黄斑変性」の患者へ、網膜の細胞を移植。iPS細胞が臨床応用された世界初の事例となった。ヘリオスの立ち上げにも関わったが、今は離れている。
請求は特許法に基づく、「公共の利益のための通常実施権」を求める裁判のような手続き。経産相が請求を受け付けた後は、審査をした上で、裁定をする。特許庁によると、「公共の利益のための通常実施権」による裁定請求は過去に1度だけで、却下されている。今回裁定の判断がされれば初のケースになるという。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。