岸田氏「使用済み核燃料、再処理すれば期間300年」はミスリード
【岸田文雄・前自民党政調会長の発言】
「使用済み核燃料の問題があるのはその通り。ただ核燃サイクルを止めてしまうと、核燃サイクルによって除去される高レベルの核廃棄物はそのままということになります。再処理すると廃棄物の処理期間は300年、直接処理すると10万年かかるといわれています。この処理の問題をどう考えるか」(2021年9月18日の日本記者クラブ主催の総裁選討論会)
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【判定結果】
岸田氏は候補者同士の討論で、「核燃料サイクル政策」を進めるメリットを強調し、政策の見直しを掲げる河野太郎行政改革相の主張に疑問を投げかけた。原発の使用済み核燃料から再利用可能なウランやプルトニウムを取り出すことを「再処理」と呼ぶ。核燃サイクルは、再処理して得られたプルトニウムなどを加工し、新しい燃料として再び発電に使うものだ。政府は、核燃料の有効利用につながるとして歴史的に推進してきた。
これに対し、岸田氏が「10万年かかる」とする「直接処理」とは、使用済み核燃料を再処理せずにそのまま廃棄物として地中に埋める処分方法を指す。直接処分と呼ばれ、海外ではこちらを採用する国が多い。たとえば、フィンランドでは、すでに最終処分場の場所が決まっていて、地下深い地層に埋めることにしている。ただ、ほとんどの国では処分場の候補地すら決まっていない。
使用済み核燃料には、燃え残ったウランや、プルトニウムなど核分裂で生じた高レベルの放射性物質が含まれる。経済産業省によると、高レベル放射性廃棄物を直接処分した場合、放射能レベルが地中に元々ある天然ウラン並みに下がるのに10万年かかるという。これが岸田氏の発言の根拠になっていると思われる。
一方、核燃サイクルを進める日本は、使用済み核燃料をすべて再処理してリサイクルする方針だ。国内の原発から出た使用済み核燃料は、海外などで再処理された一部を除き、多くは原発敷地内のプールなどに保管され、再処理を待っている。
再処理するための施設として、国内では、日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)が来年度上期の完成をめざしている。施設が稼働すれば、国内でも本格的に再処理が始まる。ただ、六ケ所再処理工場はもともと1997年に完成予定だった。これまでに25回も延期を繰り返していて、いつ本格稼働するのか見通しにくい。
再処理の過程でも「核のごみ」と呼ばれる高レベルの放射性廃液が出る。危険なので、ガラスを混ぜて固めるなどしたうえで、地下300メートルより深くに埋設処分することが法令で定められている。政府が進める核燃料サイクルが実現しても、高レベル放射性廃棄物が出るのは避けられず、国内のどこかに最終処分場を建設し、数万年単位で隔離する必要がある。
政府などが進める最終処分場の候補地選びは難航している。北海道の2町村で3段階の選定プロセスのうち第1段階にあたる文献調査が始まったが、まだまだ先は見通せない。
再処理工場が稼働したとしても、岸田氏の言う「300年」が実現できるわけではない。廃棄物の処理期間の短縮には、再処理工場のほかに高速炉という特殊な原発を建設し、政府が将来的にめざす「高速炉サイクル」を実現することが前提となる。
高速炉は、既存の原発では燃やしにくい放射性物質も核分裂させることができるという。経産省は、高速炉を繰り返し運転することで、生じる廃棄物の放射能レベルを大幅に下げ、300年程度で天然ウラン並みにできる可能性があると主張している。
だが、国内では、発電技術を確立するための高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)で事故やトラブルが相次ぎ、2016年に廃炉が決まった。政府は後継炉について、運転開始が今世紀半ばごろになるとしているが、実用化の見通しは立っていない。
しかも、高速炉サイクルを実現するには、高速炉から出る使用済み核燃料を再処理、加工する新たな施設も必要になる。建設地も決まっておらず、建設費もいくらかかるか不明だ。250日しか稼働しなかったもんじゅには建設費や維持費で1兆円超、まだ本格稼働していない六ケ所再処理工場には、建設費だけで3兆円超が投じられている。
技術的な難しさもある。日本原子力学会が19年にまとめた提言では、岸田氏の言う「300年」の実現について、「今世紀後半から22世紀にかけて技術を確立する」としている。
発言は高速炉サイクルの実現が見通せていない現状や前提に触れておらず、重要な事実の欠落により、誤解を与える余地が大きい。(川村剛志)
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