欧州、赤字の鉄道も公的支援で維持 「公共交通」の意識に違い 

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筒井竜平 ドルンビルン=青田秀樹
鉄道を地域開発の軸に据えたオーストリア西部フォアアールベルク州
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 コロナ禍で国内の鉄道会社の経営が悪化し、不採算のローカル線の維持が難しくなっている。政府や自治体の支援を求める声もあがるが、公的支援の道は限られる。一方、欧州では、赤字でも鉄道は市民へのサービスだとして「公」が路線を保つ。あえて運行を拡大して街づくりにも生かす。

つつい・りゅうへい 1988年生まれ。新潟総局、阪神支局などを経て大阪経済部員。高校卒業までは芸備線が走る広島で育った。

 広島と岡山の県境をまたいで走るJR西日本の芸備線(159キロ)。9月上旬の午前9時前、広島県山間部の東城駅から1両編成の列車に乗ると、乗客は4人だけだった。利用者が大きく落ち込み、一部廃線がとりざたされている。

 通院や買い物で芸備線を利用する岡山県新見市の沢田揖子(いつこ)さん(84)は「いつもほぼ貸し切り状態。廃止になると便利が悪いけど、私1人のために残せとも言えない」と話す。人口3万3千人の広島県庄原市内の一部区間は、1キロあたりの1日平均利用者数を示す「輸送密度」が全国最低水準の11人で、1日3本しか通らない。

 JR西は都市部の路線や新幹線でかせいだ利益をあてる形で、採算が悪いローカル線を維持してきた。しかし、コロナ禍で経営が悪化。線路などインフラの管理費用が重くのしかかる。芸備線沿線の自治体と利用促進策の話し合いを始めたが、乗客が増えないと廃線が現実になりかねない。

 JR西の長谷川一明社長は6月の会見で「たくさんの方に利用いただき、経営的に成り立っていることが持続可能性の要素」と説明。JR西関係者は「欧州のように公的支援の充実を考える時期に来ている」という。

 その欧州では違った光景がみえる。音楽の都オーストリア・ウィーンから鉄路で西へ6時間。ライン川沿い、スイス国境のフォアアールベルク州では、山裾に広がる田園地帯の町を30分ごとにローカル列車がつなぐ。人口約5万のドルンビルン市では、快速や長距離列車も止まり、15分に1本のペースだ。

 通学に列車を使う、地元の大学生ミカイル・ドーガンさん(26)は「列車は快適だし、毎時、決まった時間に運行されて便利だ。バスとの接続も前より良くなった」という。

 かつては違った。近くの町ハ…

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    遠藤乾
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    2021年10月5日3時26分 投稿
    【視点】

     東京一極集中のもとで視野まで狭くなる。この良記事は、日本の田舎と欧州の事例を結び、その視野狭窄をいくらか和らげてくれる。  もう5年ほど前だが、JR北海道は、全営業区間の半分を維持困難とした。この記事で取り上げられている芸備線もまた、廃

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