欧州で天然ガス急騰 日本の電気料金への波及懸念強まる

ロンドン=和気真也
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 欧州で天然ガス価格の高騰が止まらない。世界経済の回復によるエネルギー需要の高まりや風力発電の不振が要因とみられるが、最近ではロシアをめぐる供給網疑惑も浮上。アジアの液化天然ガス(LNG)の価格高騰も誘い、日本の電気料金にも波及しかねないと懸念も強まっている。(ロンドン=和気真也)

 金融情報会社リフィニティブによると、欧州の天然ガスの指標価格となる「オランダTTF」の9月30日の終値は前日比5%上昇し、今年最高値を更新した。前年比では約7倍に値上がりしている。

 英国の指標価格も同日、前年比で約6倍に上昇。家庭向けガス料金の値上げにとどまらず、天然ガスは火力発電に使われるため、電気料金にも影響が出ている。

 英国では9月に入り、ガスや電力の小売業者6社が倒産した。契約者と事前に決めた販売価格を、調達価格が上回ることによる「逆ざや」に耐えられなくなったためとみられる。供給はすぐには止まらないものの、市民は光熱費が上がる不安を抱いている。

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欧州のガス指標は急騰している

 9月中旬には肥料をつくる化学工場が燃料のコスト高で操業を停止。この工場から副産物として抽出される二酸化炭素がビールや飲料の炭酸ガスや、食品のパッケージ加工など幅広い用途で使われていたため、英国内の食品供給網が乱れる事態に発展。政府は急きょ運転資金を用意し、工場を再稼働させる異例の対応に負われた。

 欧州各国も対策に乗り出した。地元メディアによると、フランス政府は9月中旬、580万世帯に100ユーロ(約1万3千円)を補助する案を発表。スペイン政府はエネルギー会社の利益の一部を消費者に還元したり、光熱費の値上げを制限したりする緊急措置案を閣議決定した。ギリシャイタリアも補助金などの支援策を検討しているという。

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スペインのマドリードで電気料金の値上げに抗議する人々=AP

 価格高騰は様々な要因が重なって起きた。

高騰の背景にあるものは

 一つが景気回復だ。欧米や中国では新型コロナウイルスの感染拡大で停滞していた経済がワクチン接種が進んだことで活性化し、エネルギー需要が増した。気候変動対策が進む欧州では、火力発電の燃料の比重を石炭から天然ガスに移してきたことも後押しし、ガス需要が一気に増えた。

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英南東部にある液化天然ガス(LNG)の輸入港に見える貯蔵タンク=AFP時事

 次に、欧州各国が力を入れる風力発電が「風不足」で十分に機能せず、火力発電に頼らざるを得ない事情が挙げられる。今年の欧州は春先まで寒さが続き、暖房を使う期間が長引いて例年よりガス貯蔵量が少なくなっていたという不運も重なった。

 事態は、関係国間の政治的な駆け引きにも発展している。

 欧州議会の議員約40人は9月中旬、欧州連合(EU)にロシアの政府系天然ガス会社「ガスプロム」の調査を求める書簡を送付。書簡にはガスプロムが供給を抑えている疑いがあると指摘し、ロシアが欧州向けに新たに建設したパイプライン「ノルドストリーム2」に「欧州が稼働に合意するよう圧力をかける狙いがある」と主張した。

 これに対し、ガスプロム側は自国メディアなどで「契約通りの量を送っている」と反論。国際エネルギー機関(IEA)は21日に声明を出し「ロシアは欧州各国との契約を履行している」としつつも「輸出量は2019年水準より低い。ロシアはもっと貢献できるはずだ」と供給を増やすよう促した。

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英国にある液化天然ガス(LNG)の貯蔵タンク=ロイター

日本の電気料金への影響懸念

 日本への影響を懸念する声も出始めている。業界関係者によると、欧州の天然ガス価格は、アジア向けの液化天然ガス(LNG)の価格と連動しやすいためだ。

 昨冬は厳寒で暖房消費が増え、LNG不足が問題になった。LNGは日本の主力電源の火力発電の燃料に使われており、電力需要が増した場合に調達するLNGの価格は現在、基準単位あたり26ドルを超える水準で取引されている。5月ごろまでは10ドル未満の水準だった。

 独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」の白川裕調査役は「昨冬の経験から電力各社は在庫に余裕を持たせてはいるが、冬の寒さが厳しさを増せば、LNG燃料を高価格でも買い増す必要が出てくる」と指摘。その上で「家庭の電気料金の値上がりにもつながりかねない」と懸念を示す。