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HPVワクチン勧奨中止8年 国内外で調査データは蓄積

下司佳代子、後藤一也、阿部彰芳
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 子宮頸(けい)がん予防のためのHPVワクチンの接種の「積極的勧奨」が、再開される方向で動き出した。勧奨の中止から8年。この間、接種の効果や安全性に関する報告が国内外から集まってきたことなどが背景にある。

 HPVワクチンは2013年4月に原則無料の定期接種になった。だが、副反応の訴えが相次いだ。失神や接種部分の痛みが多かったが、特に注目されたのは、接種した部位以外の広い範囲の痛みや、手足が動かしにくくなるなどの「多様な症状」だ。頻度は少ないが、過去に別のワクチンで報告された副反応ではみられないものだった。

 厚生労働省の検討部会は2カ月後の6月、「副反応の頻度がより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」と判断。「今後の信頼性を担保するために早急に必要なデータを集める」ことも確認された。厚労省は自治体に接種を積極的に勧奨しないよう通知した。

 これによって、自治体から対象の人に接種の案内が届かなくなった。00年度生まれから接種者が激減し、02年度生まれ以降の接種率はほぼ0%になった。

 中止から8年たち、ワクチンに関するデータが国内外から集まっている。1日に開かれた厚労省の検討部会では、ワクチンの安全性や有効性▽接種後に生じた症状に苦しんでいる人たちに寄り添った支援▽安全性や有効性などの情報提供の進め方――の3点について検討。そのうえで、積極的勧奨が止まっていることをどう考えるか、委員の意見を求めた。

 検討部会では有効性と安全性についての複数の報告が示された。大阪大のチームは31自治体が提供した接種記録と子宮頸(けい)がん検診の結果を使い、20~24歳の1万5千人のデータからワクチンの効果を調べてきた。これによると、がんの前段階にあたる「異形成」のうち、中等度以上のリスクがワクチンで約75%下がった。

 この研究では、中等度の異形成が自然となくなることもあるなど、実際の効果の評価には限界はある。だが、がん自体を減らす効果も昨年報告されている。

 スウェーデンのチームは06年以降に10~30歳の約167万人のデータを調べ、接種した人ではがんの発生率が63%低いと分析した。16歳までに接種した人に限ると88%低かったことも示された。子宮頸がんは20代後半から増え始めるため、さらに調査は必要だが、画期的な結果と目されている。

 一方、接種との関連を指摘する声もあった慢性疲労や自己免疫性疾患は、欧米などで接種した人としていない人を比べた大規模な研究が行われたが、関連はみられなかった。国内で問題となった多様な症状も、厚労省研究班の調査結果では接種していない人でも一定数確認され、接種との因果関係ははっきりしていない。

 厚労省はまた、接種後の多様な症状を訴える人らの診療で中核的な役割を果たす医療機関が47都道府県に84機関あることを説明。情報提供用のリーフレットを昨秋改訂し、昨年度は6割にあたる1068市町村が対象者に個別送付したことも報告した。

 委員からは「副反応が出ている人への寄り添う対応が行われ、情報提供もされている」「積極的勧奨を再開する時期に来ている」など、再開を支持する意見が相次ぎ、異論はなかった。部会長の森尾友宏・東京医科歯科大教授は議論のまとめとして「大きな方向性として、積極的勧奨を妨げる要素はない」と述べた。

 検討部会では、接種後の症状に対応できる医療機関を増やす▽学校、地域、医療機関が連携して相談体制を充実させる▽リーフレットの情報を最新のものに更新する――など、再開に向けた具体的な進め方についての提案も出た。

 勧奨の再開の時期は未定だが、田村憲久厚労相は9月17日の記者会見で「審議の内容によっては、来年度から始まるということも否定しているわけではない」と話している。

 検討部会での議論について、ワクチンに詳しい長崎大病院の森内浩幸教授(小児科)は「積極的勧奨の再開に向けた動きとなったことはよかったが、この8年間の国の責任は重い。接種の機会を逃したすべての希望者を定期接種の対象とし、接種費用の補助だけでなく、接種後に症状が出たときにも予防接種法にもとづく救済ができるようにするべきだ」と話す。

 「勧奨が差し控えられた8年前は、痛みなどの多様な症状を訴える子に対し、医師の理解が足りず、医療の受け皿もなかった。最初にきちんと対応できないと症状が長引くことなどがわかり、ワクチンの接種がきっかけかどうかは別として、多様な症状に対する医師の理解が深まり、どう対応するべきかを学んでいる」とし、支援体制も整ってきていると指摘する。

 日本産科婦人科学会日本産婦人科医会も1日、検討部会での「真摯(しんし)な検討」を歓迎する声明を発表。「世界中からワクチンの有効性の報告が相次ぐなか、日本では何も議論されないまま8年以上経過した。再開に向けて国民の理解が得られるよう関係者と活動していく」とした。

 一方、接種後に健康被害を受けたとして、国や製薬会社に訴訟を起こしている原告団などは1日、厚労省で記者会見し、積極的勧奨の再開に反対する考えを示した。接種後に生じる症状や治療体制について十分に議論されていないとして、「(積極的勧奨の再開を)『妨げる要素はない』という結論を導いたことは大変不当」「検診という有効な手段があることもまったく顧みられていないことも問題だ」と訴えた。(下司佳代子、後藤一也、阿部彰芳)

HPVワクチンをめぐる経緯

2009年10月 2価ワクチン「サーバリックス」承認

 10年11月 国が接種の公費助成開始

 11年7月 4価ワクチン「ガーダシル」承認

 13年4月 定期接種の開始(小6~高1相当)

 13年6月 持続的な痛みが接種後に特異的に見られたとして、厚生労働省が積極的勧奨を中止

 14年1、7月 厚労省副反応検討部会は、接種後の症状は「機能性身体症状」で、接種後の痛みや不安などがきっかけになったことは否定できないと判断。中毒や免疫反応は否定

 16年7月 副反応を訴える女性たちが国と製薬会社に損害賠償を求めて提訴

 16年12月 接種していない人でも、接種後にみられた症状と同様の症状の人が一定数いると厚労省研究班が調査結果を発表

 20年10月 厚労省が安全性や効果をまとめたリーフレットを改訂し、自治体にワクチンの情報について個別通知を求める

 21年8月 田村憲久厚労相が積極的勧奨再開の議論を始めると表明