ノーベル賞受賞者も絶賛 日本生まれの小さな結晶が集める大きな注目

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小堀龍之
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 日本の研究機関「物質・材料研究機構(NIMS)」から生み出される透明な結晶が、ノーベル賞の受賞者ら世界中の研究者から注目を集めている。結晶を作った日本人研究者が名を連ねる論文は、有名な科学誌ネイチャーやサイエンスを含めて1千本を超す。この結晶とは、いったいどんなもので、何に使われているのか。

 「彼らの結晶がなければ、この10年間に発見された多くの興味深い現象は、まだ知られていなかったでしょう。それは誇張ではなく、単純な事実です」

 2010年にノーベル物理学賞を受賞した英マンチェスター大学の研究者アンドレ・ガイムさん(62)は、朝日新聞の取材にそう回答を寄せた。ガイムさんは10年前からNIMSに結晶を送ってもらい、研究に使い続けているという。

 茨城県つくば市にあるNIMSの一室で、その結晶を見せてもらった。

 光を反射してきらきらと輝く結晶は、ダイヤモンドのようだ。大きくても約1ミリと、砂粒のように細かい。「六方晶窒化ホウ素(hexagonal boron nitride、略称hBN)」と呼ばれる、窒素やホウ素からできた純度の高い化合物だ。

 この小さな結晶は、「グラフェン」と呼ばれる物質の研究に欠かせない。グラフェンは炭素原子がつながってできた極薄のシート状物質で、電気や熱を伝えやすい。電気抵抗がゼロになる超伝導になる性質も持ち、「量子コンピューター」などへの応用が期待されている。

 ガイムさんらは、鉛筆の芯の主成分であり、炭素原子が重なったグラファイト(黒鉛)にテープを張り付け、引きはがすという簡単な方法でグラフェンを作れることを発見し、一気に研究が進んだ。

 ただ、グラフェンは作るのが簡単でも扱いは難しい。厚さがたった原子1個分しかないため、表面が少しでもでこぼこしたもののうえに置くと、形がゆがんでしまい、本来の性質を調べることが難しくなる。

 そこで注目されたのが、NIMSが作るhBNの結晶だった。高純度なhBN結晶は、表面が原子レベルに平らな性質を持ち、電気をほとんど通さない。グラフェン本来の性質を邪魔せずに、様々な研究に使うことができる。

 NIMSは高純度なhBN結晶の安定供給に世界で初めて成功した。そのためガイムさんのほか、米国のマサチューセッツ工科大学や英国のオックスフォード大、ドイツのマックス・プランク研究所、東京大や京都大など、名だたる研究機関からのオファーが相次ぐようになった。

 NIMSが現在、研究用の結晶を提供しているのは、欧米やロシア、中国、インド、イスラエルブラジルといった世界27カ国・地域、国内の大学や企業あわせて約270機関にも上っている。多くは研究用の無償提供だ。

 「結晶の純度は高くとも、サイズは小さなもので、こんな風になるとは想像もしていませんでした」

 そう話すのは谷口尚(たかし)さん(62)。NIMSで約20年、結晶作りを続けてきたスペシャリストだ。

 NIMSの結晶を提供された研究者は、研究成果を発表する際、谷口さんと同僚の渡辺賢司さん(59)の2人を論文の共著者として記すことが多い。

 谷口さんらによれば、今年4月16日までに2人が共著者になった論文は1126本あった。掲載された科学誌の中には著名なネイチャーが41本、サイエンスも40本含まれる。ネイチャーに「最も多作の研究者」と紹介されたこともあるほどだ。

 「小さな結晶を大事に使って成果につなげたうえ、こちらの貢献も尊重してくれる共同研究者には感謝したい」

■注目を浴びたきっかけは…

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