ひきこもり 1686人の心の声 定義からこぼれ落ちる女性の実態

村井隼人
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 ひきこもり当事者や生きづらさを感じる人ら1686人の心の内を聞き取った「ひきこもり白書2021」が刊行された。ひきこもり経験者らで作る団体がまとめた。これまでの国の調査では2~3割台と見られていた女性の割合が6割を超すなど、従来のひきこもり像とは異なる姿が見えてきた。

 出版したのは当事者団体「ひきこもりUX会議」。オンラインや他の支援団体などにも依頼した調査の結果を専門家とともにまとめた。内訳は、現在ひきこもりの人と過去にひきこもっていた人が計1448人、ひきこもりではないが生きづらさを感じたり過去に感じたりした人らが238人。国が2015年と18年に5千世帯を対象に実施した調査では、ひきこもりの人や過去ひきこもっていた人からの回答は200人前後で、今回のような大規模な聞き取りはめずらしい。

専業主婦はひきこもりにならない?

 「職業欄には専業主婦と書き、買い物と習い事には出かけるのでひきこもりの範疇(はんちゅう)には入らないでしょうが、夫が出張で留守の日は誰とも話さないこともあります。習い事も人間関係の気疲れで長く続きません。長年の友人はいますが、離れているので普段会うこともなく、本心から話せる人は身近におらず、孤独を感じます」。調査に応じた女性はこう訴えた。

 同書によると、世間ではひきこもりと言えば、「暗い自室にこもり、ゲームに没頭する若い男性」という先入観が強いが、調査ではひきこもり状態の回答者のうち女性は6割を超えたという。国の調査で、女性は20~30%台だった。

国の定義から漏れる女性

 この差はどこから生まれるのか。国の調査では、「趣味の用事のときだけ外出する」「コンビニなどには出かける」「自室から出るが、家からは出ない」などの状態が半年以上続いていることを「ひきこもり」と定義する。しかし調査では、この定義に当てはまっても、自宅で仕事をしている人や介護・家事・育児している人であれば「ひきこもり」から除外される傾向にある。今回の調査では、既存の定義や他者による判定ではなく、「自分をひきこもりだと思う」と自認する人から広く回答を寄せてもらうようにしたという。

 同書の監修を務めた流通科学大学講師の新雅史さん(社会学)は国の定義では「家にいる時間が当然長くなる主婦や家事手伝いの人が除外され、女性のひきこもりが見過ごされてきた」と指摘する。

 執筆者の一人で、同団体の代表理事、林恭子さんは「ひきこもり当事者が実際どのような状況にあり、何を思い、何を必要としているのかについてはまだまだ理解は進んでいない。届いた貴重な声から、当事者の多様さを伝えて還元したい」と話す。

 林さんは、行政の支援がひきこもりの多様さやリアルな実態を認識しないまま進んできたと感じている。ひきこもり支援がまだ就労支援に偏りがちなのもその一つだという。

就労支援の前に… 実態に合わない行政の支援策

 白書には、未就労の人のこんな声も載せられている。「就業自体には抵抗がないが、各場面でのコミュニケーション、休憩時間、昼食時を想像すると身がすくむ」「(職場で)異質な存在になることに大きな恐怖を感じる」

 林さんは「当事者は徹底的な自己否定に陥っている。生きていてもよいと思わない、役に立たない人間は社会のお荷物だから消えてしまいたい。そんな思いでひきこもっている。生きていていいと思えない人に履歴書の書き方を教えるのは適切ではない。その手前にハードルを低くした支援が必要だ」。

 また、ひきこもりの女性の7割は男性を苦手としているが、女性専門の窓口は少ないという。性的マイノリティーの女性は、女性であることと性的マイノリティーであることから「本音を話せる場所がない」と回答した。

 自由記述には、「死にたい」との思いを抱えていると書いた人も多く、切迫した当事者も多いという。特に地方の高齢者の割合が高かったという。

46万字の書き込み 意味するものは…

 しかし、希望もあると林さんは言う。「半数以上の人が安心できる場所ができたことで生きづらさが改善したとの結果も出た」。自由記述欄はびっしり書き込まれたものが多く、46万字にも上ったといい、「たくさんの書き込みは、何か話したいことがある表れ。社会が多様なニーズに応えられるきっかけになれば」。

 同書は税込み2970円。オンラインショップ(https://uxkaigi.base.shop/別ウインドウで開きます)で購入できる。6月末に初版1千部で自費出版したが、イメージとは異なる「ひきこもりのリアル」が反響を呼び、2カ月余りで1千部を刷り増した。(村井隼人)

【ひきこもり当事者らの声】

女性やマイノリティー

・前夫の転勤により知らない土地で過ごすことになった頃から外出の頻度が下がった

・行政、民間団体主催の催しは男性参加者が多く、参加しづらい。緊張感を常に感じていた

・セクシュアルマイノリティーの問題に知識があまりない人もいるのかと不安になり、相談しづらい

トラウマや将来への不安

・幼少期から会話が苦手でいじめられることが多く、不登校になった。ひきこもることでしか自分を守れなかった

・年齢の割に社会的スキルが足りず、今後仕事をしていけるかどうか

・人が嫌いなのではなく、人間関係が怖い

・親の死後を考えるとつらい

・誰にも迷惑をかけずに死にたい

支援の課題

・就労支援の相談員が大手企業を退職したおじさんで、ひきこもりの話が通じなかったように思えた

・支援を求めて新しい場所に行くたびに、一から自分の人生を解説しなければならず、ただでさえ話すのが苦手なのに精神的にものすごく負担が大きい