村上春樹の短編に現れる「神戸の山」 足で探した記者が出会った景色

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華野優気
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 日本を代表する作家の一人、村上春樹さん(72)が昨年に出した最新短編集「一人称単数」に、舞台が「神戸の山」と明記された作品がある。その山はいったいどこなのだろうか。作品を読み込んだ記者が、作中にちりばめられたヒントを元に歩いて探してみた。

 短編「クリーム」。ピアノ演奏会の招待状を受け取った18歳の青年が、会場に向かう。だがそのホールは閉ざされており、立ち寄った公園の四阿(あずまや)に座っていると不思議な老人に出会う。

六甲山へ 実際のバスは満員

 《会場は神戸の山の上にあった。阪急電車の**駅で降り、バスに乗って曲がりくねった急坂を上がっていく》

 主人公が招待状を受け取った「10月の初め」に近い9月下旬。よく晴れた土曜日の昼下がりに、記者は神戸市灘区の阪急六甲駅で電車を降りた。

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阪急六甲駅からバスに乗る。駅前にはスーパーがあり、人通りも多い=2021年10月2日午後3時36分、神戸市灘区、華野優気撮影

 駅前には、作品内と同じように路線バスの停留所がある。目当ては市営バスの16系統。終点には、六甲山のふもとと山頂を結ぶケーブルカー「六甲ケーブル」の駅がある。

 阪急のどの駅なのか。作品をたどるこの旅で重要な点だ。「神戸の山」である六甲山のふもとの六甲駅はぴったりだと思った。

 バスの車内はほぼ満席だった。立ったまま車窓を眺める。スーパーや飲食店が立ち並ぶ駅前を発ち、約3キロの坂道に体が揺られる。まち全体が緩やかな傾斜地にあるようだ。

 沿線にある神戸大学のキャンパスを過ぎると、20分ほどで外の景色は変わり、高台にたどり着いた。標高約240メートル。先ほどまでいた街を見渡せる。ずいぶん高いところまで来たらしい。

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阪急六甲駅からバスに乗り、六甲ケーブル下駅で降りる。乗客の多くはケーブル線へ向かっていった=2021年10月2日午後0時32分、神戸市灘区、華野優気撮影

 《山を上るにつれてバスの乗客の数は減っていき、指定された停留所に着いたとき、車中に残っているのはぼくと運転手の二人だけになっていた》

 車内には、最後まで家族連れやカップルなど十数人の乗客が残っていた。バスを降りると、その多くはケーブルカーの駅へ。山上へ向かう観光客のようだ。

ホール、公園、四阿……。小説に出てくるものを探して記者は歩き回りますが、見つからないものもありました。「神戸の山ではない」という説を聞き、記者は別の駅に降り立ちます。後半には、村上春樹作品を研究する土居豊さんのインタビュー内容もあり、「村上さんの心境の変化が表れた作品」と指摘します。

 《だらだらと続く坂道を歩い…

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