健康のために温暖化対策急げ 医学誌200誌以上が共同で呼びかけ

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小堀龍之
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 1・5度を超す気温上昇が健康に及ぼすリスクは、いまや十分に立証されている――。世界各国の医学誌220誌以上の編集者が気候変動地球温暖化)対策についての共同論説を発表した。各国の指導者に対し、科学に基づき、健康を守るよう呼びかけた。どんな内容なのか。

 共同論説は9月6日、欧米や中国、ブラジルなどの医学誌や科学誌の編集者らが発表した。「世界五大医学誌」と言われる英ランセットやBMJ、米ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンなども含まれている。

 論説は、世界の平均気温が産業革命前から1・5度上昇し、生物多様性が失われ続けると、取り返しがつかない壊滅的な健康への悪影響が生じる危険があることが「科学的に明らかだ」と警告した。

 これまでの研究をもとに、65歳以上の人の暑さに関連する死亡率は、過去20年間で1・5倍以上に高まっていると指摘する。気温上昇は脱水症状や腎機能低下、皮膚がんのほか、感染症、精神疾患、心臓や肺の病気、アレルギーなど様々な病気を増やす。

 また、温暖化は1981年以降、主要な作物の収量を1・8~5・6%減少させ、栄養不足を解消する取り組みを妨げているという。

 自然破壊パンデミック(世界的大流行)の可能性も高めると指摘した。環境破壊ですみかを追われた野生動物が人に近づくことで、未知の病原体が人間に感染してしまうことが心配されている。

 各国の政府や企業、金融機関が温暖化への対策として温室効果ガスの排出量を事実上ゼロにする目標を掲げ、生物多様性を守るため陸域と海域をそれぞれ少なくとも30%保護することを目指しているが、論説はこうした目標を定めるだけでは不十分だとして、迅速な行動を求めた。

 共同論説は、10月に始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)や、国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)を前に発表された。

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は共同論説について「新型コロナウイルスの流行はいずれ終わるが、気候危機に対するワクチンは存在しない」として、対策に動くことが、より健康で安全な未来につながると強調している。

気候変動と健康、同時に対策する方法に注目

 東京大学の橋爪真弘教授(環境疫学)は今回の共同論説について「こんなに多くの医学誌に同時に同じ論説が掲載されることは、知る限りでは聞いたことがない」と話す。

 橋爪教授は環境省の委員会な…

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2021年10月11日19時56分 投稿
    【視点】

    温暖化は暑熱・熱波の影響による熱中症、死亡率の変化(循環器系、呼吸器系疾患)、異常気象の頻度、強度の変化による障害や死亡の増加という直接的影響だけではなく、記事にあるように蚊をはじめとする媒介動物等の生息域、活動の拡大による動物媒介性感染症

    …続きを読む