第5回気づけば借金700万円、マルチにはまった 黒歴史を小説にするまで

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聞き手・米田優人
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 大阪に住む20代の女性がマルチ商法にはまり、借金を重ねて追い詰められていく。こんなストーリーの小説「マルチの子」が6月に発刊された。実体験をもとに執筆したという作家の西尾潤さんに、作品に込めた思いを語ってもらった。

大阪府生まれ。2018年、第2回大藪春彦新人賞を受賞。翌年、戸籍ビジネスを題材にした「愚か者の身分」(徳間書店)でデビューした。ヘアメイク、スタイリストとしても活動している。

 最近、誘われたんです。「投資マルチ」。本をほぼ書き終わった今年の3月ぐらいでした。何年も連絡をとっていなかった知人から突然、LINEがきて。近況とかたわいもないやりとりをしているうちに、仮想通貨への投資を持ちかけられました。私が「いまマルチの本を書いているんだけど、それ、マルチでしょ?」と聞くと、知人は「わかる?」と。もちろん、断りました。

 私は1990年代にマルチの世界に入りました。大阪の高校を卒業してデザイン事務所に就職しましたが、「バンドをやりたい」と思って仕事を辞めていたころです。アルバイト先の先輩から「すごい話、知ってるんだよ」と声をかけられました。それが、泡風呂の機械を扱うマルチだった。売れれば紹介料がもらえる、と。話を聞くうちに「誰にでも公平に可能性があるビジネスでおもしろそう」と興味がわきました。母が昼夜働いていたので、「少しでもお金渡せたら喜ぶやろうなぁ」とも思いましたね。

多いと月収150万、やがて友人と疎遠に

 やっているのは「普通の人」…

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