「高校野球じゃなくても」 ドラフト待つ17歳、部活辞め磨いた直球

大宮慎次朗
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 11日のプロ野球ドラフト会議を心待ちにしている球児がいる。最速148キロの直球を誇る左腕の渡辺一生投手(17)だ。神奈川県内の強豪校で1年生の時から活躍したが、部になじめず2年の秋に転校。「高校野球じゃなくてもプロはめざせる」とクラブチームで再起し、腕を磨いてきた。

 ゆっくり右足を上げて軸足に力をため、左腕を振り下ろす。渡辺投手は力感のないフォームから繰り出す「球速以上に感じる速球」が大きな武器だ。ドラフトが迫る5日、取材に「緊張もあるけど、わくわくが勝っています」とはにかんだ。

 横浜市出身で、小学1年から野球を始めた。同じ左腕の大リーガー、クレイトン・カーショー投手に憧れ、同じ舞台に立つ夢を抱き続けている。高校では県内の強豪私学に進学。1年の夏からメンバー入りし、神奈川大会決勝のマウンドを経験した。冬に球速が140キロを超えた。

 歯車が狂い始めたのは新型コロナの休校が明けた2年の夏ごろ。久々の練習というのもあってか左肩を痛めた。大会に間に合わせようと焦って練習したが、また悪化した。その後、外野手として出場する機会が増え、マウンドが遠のいた。「俺ピッチャーなのになあ」

 野球をする理由がわからなくなった。部活も学校も行きたくなくなり、仮病を使って休むこともあった。その分自分の将来を考える時間ができ、しばらく家で考えこんだ。

 学校を辞めたいけれど、野球はやりたい。なんで続けたいんだろう。甲子園だけが目標じゃなかった。そうだ、プロになりたかったんだ――。

 思いを両親に打ち明けてみた。父の和也さんは「そう思うなら、それでいいんじゃないか。辞めるなら、ここでちゃんとやりなさい」。そう言ってあるチームを紹介してくれた。

 大和市を拠点にする「BBCスカイホークス」は、様々な事情で野球部を途中で辞めた球児の受け皿になっているチーム。指導者は元プロ選手の副島(そえじま)孔太監督(47)が務め、選手の多くが通信制の高校に通いながら、社会人野球や独立リーグへのステップアップをめざしている。公式戦はなく、大学との練習試合を年間30試合ほど行う。

 渡辺投手は11月に転校して入団。のびのびした練習環境で、仲間とも打ち解けやすかった。ただ、初めての練習試合では、大学生相手に自慢の直球が全く通用しなかった。空振りと思ったらファウルに、ファウルと思ったらヒットを打たれた。副島監督に「ほら、空振り取れねーだろ」と言われ、「このままじゃやばい」とスイッチが入った。

 それから、体重が球に乗るように、股関節を意識したシャドーピッチングを繰り返した。今年の春に148キロを記録し、徐々にプロのスカウトからも注目される存在に。今秋までに10球団が視察に訪れたという。

 春と夏には甲子園のテレビ中継で同世代の活躍を見たが、不思議と未練はなかった。むしろ「ストレートなら勝負できる」。

 なぜプロになりたいのかと尋ねると、渡辺投手は「周りに迷惑ばかりかけてますから」と頭をかいた。それから、まっすぐ前を見て言葉を継いだ。「両親は高校を辞める意見を尊重してくれた。プロになって恩返しがしたい。あと、野球を辞めてしまった人に、このチームを知ってほしい」(大宮慎次朗)

県内高校生 12人志望届

 ドラフト会議を前に、神奈川県内では12人の高校生がプロ志望届を提出した。

 今春の甲子園で優勝投手になった左腕の石田隼都選手(東海大相模)をはじめ、夏の甲子園に出場した金井慎之介選手(横浜)や神奈川大会準優勝の山岸翠選手(横浜創学館)が名を連ねる。ほかに高橋零(寒川)、町田隼乙(光明相模原)、金子功児(同)、加藤隆斗(川崎総合科学)、永島田輝斗(立花学園)、柳沢大空(日大藤沢)、阿部和広(平塚学園)、稲田翔太朗(横浜創学館)、加賀美祐太(武相)の各選手が提出した。

 渡辺投手は日本高校野球連盟に所属する選手ではないため、志望届を提出しなくてもドラフト指名の対象になる。