大学発の繊維ベンチャー 23歳の大学院生が起業 岐阜大

高木文子
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 岐阜大学大学院生の長曽我部竣也さん(23)が、所属する研究室が生んだ特許技術を商品化しようとベンチャー企業を設立した。「繊維のまち」で知られる愛知県一宮市で育ち、街の衰退も目にしてきた。「一宮や岐阜の繊維産業に貢献したい」と意気込む。

 商品化をめざすのは、繊維の素材にナノサイズの微小な穴を開け、防虫や抗菌などの成分を閉じ込める技術。素材の機能性を高めるのがねらいだ。大学院自然科学技術研究科の武野明義教授(61)が1994年から研究を続け、10以上の特許も取得した。

 新会社「FiberCraze(ファイバークレーズ)」は9月下旬に長曽我部さんが設立し、武野教授も役員を務める。長曽我部さんは起業に集中するため、4月から休学。今は農業用の防虫ネットや靴下など4分野で商品化をめざす。防虫ネットは繊維の微小な穴に防虫薬剤を練り込んだもので、資材メーカーと商談を進めている。

 長曽我部さんは工学部3年生のときに授業で新規事業の始め方について学び、ベンチャーを志した。東京や名古屋で開かれる起業セミナーにも足を運び、刺激を受けたという。まず、学生アルバイトを家庭教師として紹介する事業を考えてみた。だが「大学生が思いつくアイデアは、たいしたことない。それよりもニッチな大学の研究を実用化できないか」。

 4年生になると、武野教授の研究室入りを希望した。初日から「面白いものはないですか」と尋ね、教授と意気投合。長曽我部さんは半月後、主に東海地区の学生向けのビジネスコンテストに案を出し、入賞を果たした。

 武野教授も30社以上の企業と共同研究しながら、技術の実用化を願っていた。ただ「起業に向けた資金集めまではしていなかった。やはり学生さんのパワーはすごい」と舌を巻く。長曽我部さんは翌20年に学生団体「起業部」もつくり、初代部長を務めた。

 生まれ育った一宮市は、隣の岐阜県羽島市などとともに世界的な中高級毛織物の産地「尾州」の名で知られる。一方で繊維街にはシャッターを下ろした建物も目立つ。技術の実用化に向けて岐阜市や一宮市の繊維メーカーや商社を回ってみると「若いのに、なんでこの業界をめざすの」と驚かれたという。

 「繊維産業は衰退が当たり前みたいになっているけれど、埋もれている新しい技術があると知ってもらいたい」と長曽我部さん。

 岐阜大は起業家育成プログラムに力を入れており、工学部では今年度、学生が企業に出向いて課題解決や商品開発などに携わる授業を必修にしている。学内の研究を生かした起業は今回で7社目。森脇久隆学長は「大学発ベンチャーのモデルになれば」と長曽我部さんの起業に期待を寄せる。(高木文子)