甲子園出たら人生変わった 無名の県立高選手、楽天で目指すでかい夢

山口裕起
【動画】「おれ、夢が変わった」 消防士を目指していたけど楽天から3位指名=山口裕起撮影
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 「前田銀治 外野手 三島南高校」

 11日夕、プロ野球新人選択ドラフト)会議が始まって約1時間15分後、東北楽天ゴールデンイーグルスの3位で名前が呼ばれた。

 「うおおお、きたー」

 静岡・三島南高の前田銀治外野手は絶叫して目を丸くした。椅子から飛び上がると、隣に座っていた稲木恵介監督(42)と抱き合った。

 前田はもともと、高校を卒業したら消防士をめざすはずだった。それが、今春の選抜大会に21世紀枠で出場して大活躍し、一躍、注目を浴びた。

 夢はプロ野球選手に変わり、この日、その入り口に立った。

 「とてもうれしい。ホッとしています」

 シンデレラストーリーに目をキラキラさせた。

 運命の1日でも、自然体だった。登校前に三嶋大社に祈願に行った後は、いつも通り授業を受ける。

 「早く(ドラフトが)始まらないかなと。甲子園の試合前と同じ気持ちでワクワクしていました」

 ドラフト会議が始まっても選抜の試合前と同様、緊張とは無縁。笑顔で報道陣にピースサインをしてみせしたり、指名候補選手一覧の雑誌に目を通したり。

 予想より早く名前が呼ばれたことには驚きを隠せなかった。

 育成契約も頭に入れていたそうで、「まさか、こんな上位で指名していただけるとは。びっくり、本当にびっくりです」。

 仲間たちから胴上げされると、涙があふれてきた。

 つい半年ほど前までは、「誰も僕の名前なんて知らなかった」という。

 三島南は野球では無名の県立校だ。レギュラーとして試合に出続けるようになったのは最上級生になってから。

 21世紀枠で出た今春の第93回選抜大会1回戦の鳥取城北戦を機に人生が変わった。

 3番中堅手として甲子園の土を踏み、フェンス直撃の三塁打など2安打をマーク。九回にはマウンドに上がって143キロを計測した。

 打って、走って、投げて――。強烈な印象を残し、スカウトたちを驚かせた。

 小学生のころ、地元のイベントで消防士が訓練を披露する姿を見てあこがれ、将来は消防士になると公言していた。

 甲子園の1試合で全国レベルを肌で感じ、自信が芽生えた。

 「おれ、夢が変わったかも」

 選抜の宿舎から静岡の自宅に帰宅後、両親に告げた。

 中学時代は捕手のポジションを奪われて外野へ回された。

 高校では一つ上の代から試合に出ていたが、主力に定着したのは2年秋に新チームになってからだ。

 「突出した選手ではなかった」と本人。それでも、「野球が楽しい。うまくなりたい」との一心でコツコツと練習をしてきた。

 1965年のドラフト制以降、同校からプロ野球選手の誕生は、初めてのことだ。

 前田は言う。「甲子園がなかったら今日はない。甲子園が人生を大きく変えてくれました」

 報告したい人がいる。

 いつも応援してくれた祖母の千鶴子さんが、8月下旬に老衰のため88歳で亡くなった。

 練習試合で本塁打を打てば喜んでくれ、今春の選抜もテレビで応援してくれた。

 12日は祖母の四十九日。「本当はプロのユニホーム姿を見てほしかったけれど、きっと喜んでくれていると思います」

 目標を尋ねると、「ホームラン王です」ときっぱりと言った。

 これからもでっかい夢を追う。(山口裕起)