二つの秩序~王緝思・北京大学国際戦略研究院長寄稿全文

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 米中の対立が激しさを増す中で、中国有数の知米派として知られる王緝思・北京大学国際戦略研究院長が朝日新聞(10月9日付朝刊)に寄稿し、対立の深層にある矛盾と衝突回避のポイントを指摘しました。以下は紙面で紹介しきれなかった寄稿の全文訳です。

     ◇

 中国と米国は戦略的競争の局面に入った。この競争は東西冷戦を含め現代史における国際競争の中で、最も長く、激しく、影響の及ぶ国が最も多い競争になるだろう。両国関係がらせん状に悪化していくその速度は、両国の専門家たちの予想を超えるものだ。国際社会、とりわけアジア太平洋地域の国々は、両国の対立の行方への懸念を深めている。

 中米関係の悪化は実のところオバマ政権時代から始まっており、トランプ政権の下でワシントンの北京に対する対抗的な姿勢はピークに達した。バイデン政権が発足した今年1月以降、中国に対する攻撃的なトーンはやや和らいだものの、対中戦略の根本的な調整は行われなかった。バイデン政権が3月に発表した「暫定国家安全保障戦略ガイダンス」は、中国について「その経済的、外交的、軍事的、技術的能力を組み合わせ、安定して開かれた国際システムに挑戦する潜在的能力を持つ唯一の競争相手」と記した。

力のバランスの変化

 多くの分析から明らかなように、中国の経済規模と軍事力は急速に米国に近づいている。今年末までに中国の国内総生産(GDP)は米国の71%前後に達すると予測されている。東西冷戦時代のソ連もGDPは米国の50%を超えたことがない。中国は世界最大の製造業を持ち、米国に代わって世界最大の投資受け入れ国となった。両国の長期的な戦略的競争において中国が次第に優位に立つであろうことは、多くの中国人並びに米国人が感じていることである。

 中国の台頭は、米国に焦りを抱かせている。米国が100年余り守ってきた世界最強国の地位を失うことは、米国の自信と国内の結束に計り知れない打撃を与えるだろう。米国の政治家たちは強硬な姿勢を示そうと、中国共産党に対して全方位的な激しい批判を浴びせ、中国に対する米国の人々の反感や恐怖をあおろうとしている。

 彼らの批判の対象は、貿易の不均衡、ハッキングによる機密の窃取、知的財産権の侵害、新型コロナウイルスの起源の隠蔽(いんぺい)、イデオロギー色の強い宣伝活動やネット監視、民営企業への圧力、香港・新疆・チベットなどにおける人権侵害、台湾への軍事的脅威、東シナ海南シナ海における軍事活動の拡大、海外の独裁政権への支援、一帯一路を通じた勢力圏の拡大、海外での資源略奪など多岐にわたる。

 民主党共和党の政策的、思想的な溝は非常に深いが、中国への攻撃的立場では一致しており、議会でも中国を対象とする法案はいずれも簡単に通っている。

 世論調査によれば、およそ4人に3人の米国人が中国に批判的な見方をしている。米国ではアジア系住民への暴力やヘイト的言説も驚くほど増えている。米国の中国系住民は、これまで両国をつなぐ架け橋として評価されてきた。しかし、彼らの置かれた状況は、今後、さらに両国間の摩擦の原因となりかねない。

 中国にとって、自国の地位の高まりは愛国主義と民族的自尊心の源泉となる。

 今年1月、習近平氏は共産党幹部を前にした演説で、「世界は過去100年になかったような大きな大変革期にあるが、時の利は我が方にある」と述べた。

 ここ数年間、米国との間で生じた鮮明な対比が、中国側の自信を高めた側面がある。新型コロナで米国は70万人を超える死者を出したが、人口で4倍となる中国は死者を約5千人に抑えている。米国では暴動が相次ぎ、今年1月には大統領選の結果を覆そうとするトランプ支持者たちが連邦議会を襲う事件まで起きた。バイデン政権がアフガニスタン駐留米軍の拙速な撤退で国際社会におけるメンツを大いに失った一方、中国は国内を小揺るぎもさせずに共産党結党100周年を祝った。

 多くの中国人、とりわけ若い世代たちは、米国に対する一種の自信、ひいては米国を侮り、必ず勝てるというような信念を持つようになっている。こうした考えが国の政策にも影響を与えるようになれば、対立をあおりがちな民族主義的感情を高めることになり、両国に長期的な損失をもたらす恐れがある。

中国の安定を脅かす米国

 近年の中国の対米強硬姿勢の…

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