宮本武蔵決闘の京都の地、今やラーメン激戦区 スープは二刀流超え

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白見はる菜
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古都ぶら

 寺や神社が幾つもある古都・京都にも、こってり背脂や豚骨を満喫できるラーメン激戦区はある。そこは、宮本武蔵が吉岡一門相手に一人で戦った、一乗寺のかいわい。なぜここが? わけを探るべく、一人、立ち並ぶ20以上の店をすべて訪ねることにした。(白見はる菜)

 ラーメン好きの記者(28)は京都に転勤してきた4年前、清水寺でも金閣寺でもなく、真っ先に一乗寺に向かい、「麺屋 極鶏(ごっけい)」で濃厚鶏白湯(とりぱいたん)のラーメン「鶏だく」を食べた。

 それ以来お世話になっている、このかいわい。叡山電鉄の一乗寺駅から歩いて5分の東大路通は「ラーメン街道」と呼ばれ、平日の昼間でも行列ができている店が多い。

 「街道」の歴史を知るため、ちょっと怪しまれながらも、一店ずつ開業年を尋ね歩いた。2010年代の開店が多い中、「1976年ごろ」と答えたのは、甘みのある鶏白湯スープで人気の「天天有(てんてんゆう)」だ。

 店長は2代目の漆畑嘉彦(うるしばた・よしひこ)さん(60)。2年前に90歳で亡くなった父、忠芳さんが71年、北側の修学院エリアで「萬来軒(ばんらいけん)」というラーメン屋台を始めた。だが、衛生上の理由で行政側から「屋台ではなく、店舗を持つように」と促され、たどり着いたのが一乗寺だったという。

 一乗寺が良かったからではない。取引先の製麺業者が営んでいたラーメン店を閉めることになり、そこを居抜きで使える利点があったので名乗りを上げたという。店名の「天天有」も引き継いだ。当時の一乗寺にラーメン店は、50年開業の「珍遊」などわずかだったという。

宮本武蔵の決闘の地がラーメン街に

 そもそも、観光スポットといえば宮本武蔵の決闘で知られる「一乗寺下り松」くらい。いまは「寺」はなく、普通の住宅街。交通の便が良いというわけでもない。

 だが、「バブル」の87年に現れた「ラーメン横綱」が人気を呼び、さらに競合店が増えていったという。

 嘉彦さんは「なんでこんなへんぴな場所でラーメン屋が増えるんや」と当初は首をかしげたが、思い当たったのは「下宿生の多さ」だった。

 「父親が屋台をやっていた修学院は、かつてはアリの巣のように下宿があって、出前もたくさんしていた。一乗寺も、大学のそばより家賃が抑えられるからか、昔は下宿生が多かった」。

不景気に伸びる業界

 新横浜ラーメン博物館(横浜市)でラーメン史を研究する中野正博さん(47)によると、全国でラーメン店が増えだしたのは98年~2002年ごろ。単価が安いので景気に左右されず、「バブル崩壊など不景気のときほど業界は伸びる」という。

 ではなぜ一乗寺? 中野さんは、京都の大学の多さを指摘する。「(学生が)安くておなかいっぱい食べられるラーメンはかなり需要があった。店が増えるにつれ、ラーメンの街として観光地化し、ますます新店が登場したのでは」

 天天有の近くにある「中華そば 高安」は、なぜか唐揚げで有名なラーメン店だ。取締役の高安慶光さん(53)は、京都での学生時代に天天有の行列を見て「こんなに繁盛するなんて。いつか天天有を超える店をやりたい」と決意。独学でラーメン作りを学び、30歳だった98年に店を構えた。「勝負するなら一乗寺で、と野心を燃やす店主は多いんじゃないかな」と話す。

 今年9月16日にオープンしたばかりの「長浜ラーメン 錦」のオーナー新井幸三さん(46)は「ラーメンファンに知ってもらいやすい」と土地の魅力を語った。ライバルは多いが、「同じ味のラーメン屋はないと思うので」と意気込んでいる。

店主も知らない「京都ラーメン」

 20店ほど回ってみて気付いたのだが、京都を代表するラーメン街には実は、「京都ラーメン」を名乗る店が少ない。「そもそも京都ラーメンが何かよくわからない」と頭を抱える店主も多かった。

 京都ラーメンって何?

 中野さんによると、京都のラーメンは戦前の38年、京都駅近くで中国出身者が始めたしょうゆラーメンの屋台が発祥とされる。黒々とした色が特徴的なスープで、この店主は後に「新福菜館」という名の店を構え、いまも人気店だ。

 その後、スープに背脂を浮かべた「背脂チャッチャ系」と呼ばれるラーメンが「中華そば ますたに」から広がった。さらに、濃厚な鶏白湯スープで「天下一品」が全国区になった。

 いわゆる京都ラーメンは、この3店の系統で構成されているという。

 ただ、中華鍋で作るみそ味の「札幌ラーメン」や、しょうゆベースのスープに平打ち麺の「喜多方ラーメン」などと異なり、こんなに統一感のない「ご当地ラーメン」は珍しいそうだ。

 中野さんいわく、「ご当地ラーメンは本来、その土地の風土や食文化が反映されるものだが、京都は『繁盛した店』がご当地化しているのが興味深い」。

 一乗寺で訪ねた23軒中、京都ラーメンを名乗っていたのは4軒だけ。「うち、京都ラーメンですかね」と逆質問する店もあった。

 新規店の参入で多様化したのか、京都ラーメンを自称する店もしない店も、鶏白湯、豚骨、薬膳といったスープの種類だけでなく、長浜、二郎系など見た目や流派も様々だ。天天有の嘉彦さんは「ラーメンは勝ち負けじゃなくて、いろんな人がいろんな口を持ってて『おいしい』と言うもの。お客さんそれぞれのナンバーワンを見つけてほしい」と話す。

いつ行っても開いてない店も

 どれが私のナンバーワンか。

 実は、今回訪れた「街道」の…

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