クイズの強さ=学歴じゃない 伊沢拓司が語る「マジック」への危機感

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聞き手・川村貴大
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 クイズプレーヤーは、なぜあんなに早くボタンを押すことができるのか?

 その答えは、クイズ対策の勉強や技術の鍛錬によって論理的に説明できるにもかかわらず、偏差値や学歴といった「マジック」にすり替えられていないか――。クイズ王として知られる伊沢拓司さんは、そんな危機感をあらわにする。伊沢さんに真意を聞いた。

 ――クイズの強さの理由説明が「論理(ロジック)」から「マジック」に置き換えられていると感じ始めたのはいつでしたか?

 もとより地上波のテレビでクイズの強さをロジカルに語ろうという試みはあまりなくて、明確に「マジック」的手法が取られるようになったと僕が最初に感じたのは中学2年生のときです。ちょうど「高校生クイズ」(日本テレビ系)が「知力の甲子園」になったタイミングでした。

 当時としては非常に画期的な、クイズの強さの説明として学歴や偏差値を用いる手法が生み出されたのですが、参加している高校生や視聴者の一部からは違和感がブログなどでつぶやかれていました。クイズのために努力した過程が、さも「頭がいい学校に通っていたから」のように描かれている、と受け取られかねない状態だったからです。

 そのときに「中身と外見の違いが発生しているんだな」と感じました。

 こう言うとマジックがとても良くないもののように聞こえますが、逆に言えばマジックがなければ当時のクイズ、特にアマチュアクイズ的な文脈にあるものは受容されなかったとも思います。短い放送時間で、競技クイズ的な強さへの理由付けをするためには有効な手段でしょう。そういう意味できっかけをくれたマジックへの感謝は当時からありました。少なくとも高校生のころからはクイズの普及にフォーカスしていたので、「ロジックで行きたいな」と思いながら「マジックの力も認めざるを得ない」という感覚を持っていました。

 ――伊沢さんは高校生クイズに出場していた当時、そうした演出意図をくみ取り、正解した理由を問われた際には「クイズの勉強で覚えました」ではなく、「新聞で読んで知っていました」「授業で聞きました」と答えていたと新著『クイズ思考の解体』(朝日新聞出版)に書いていますね。

 当時、自分の中では勝つことが全てだったので、勝つためにはテレビ映えすることを言って、スタッフさんに「こいつは映像として使いやすいな」と思ってもらえるようにと思っていました。勝つための手段として、という感覚です。「自分もマジックに加担するようになっているなぁ」というのは、必死だったので二の次になっていましたね。大学生のころ、自伝を書いていてより自覚的になったという感じです。

 ――伊沢さんは新著で「2010年代前半においては、私はマジックへの積極的加担者ですらあっただろう」と語っています。当時はどんな心境でしたか?

 なるべくクイズの実態を知ってほしいという気持ちはありつつ、当時はそれ(マジック的に演出されたクイズ番組)以外にアマチュアクイズの世界が外に広がっていくための窓口がほとんどありませんでした。実際に「クイズ研究会の部費が増えました」「業界が盛り上がっています」みたいなのを見るにつけ、やっぱりマジックの大きさ、強さというのも感じていたので、「まあしょうがないから、僕のクイズ環境を良くするためにマジックは使うけど」みたいな感じでした。

 ――クイズがマジックとして見られていることで弊害を感じたのはどんな場面ですか?

 やっぱり他の東大生からは「東大に行っているだけでクイズが強いんじゃないかと思われる」という冗談めいた苦情ももらっていますし、クイズ業界全体としても「見せ方」というのが非常に限定的になってしまいます。

 僕以外にもっと強いプレーヤーがいっぱいいるのに、肩書がないとそもそも外に出て行けないから、「学歴がないとクイズができないんじゃないか」「クイズは偏差値が良い人の遊びなんだな」と思われてしまう。

 そうなると、クイズ業界もすごく偏っていきますし、そもそも誠実ではない。クイズのマジック要素の認識だけが過度に進んだことは、新規参入者を引き寄せた面もあり、はじいてしまった面もあるというのは常々感じていて、クイズ業界としてはみんな複雑な気持ちだったのかなと思います。

 ――たしかに「○○大卒」「現役○○大生」みたいな何らかの肩書がないとクイズ番組に出にくいという風潮を感じます。

 現実的に「パネルクイズ アタック25」(テレビ朝日系)などが終わってしまった今、一般の方への門戸はほぼ閉ざされています。いよいよ学歴、肩書をベースにした業界に見えてしまうのは嫌だなと思います。

 『クイズ思考の解体』で「クイズの本来の姿」を解き明かそうと試みた伊沢さん。インタビューの後半では、クイズのロジックが「ウケている」手応えをつかんだきっかけや、「東大王」とクイズノックがロジックに軸足を置きながらも「学歴」というマジックを捨てていない現状について語ります。

 ――マジックからロジックに転換しなければならないという思いは、伊沢さんの中でどのように大きくなっていったのでしょうか?

 なんなら以前はマジックから…

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