大阪3歳児死亡の教訓は 態勢乏しい市町村、リスク評価にも課題

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 大阪府摂津市で3歳の男児を殺害したとして、母親の交際相手の男が13日、殺人罪で起訴された。母子の見守り支援をしてきた行政には虐待の危険がうかがえる情報も寄せられていたが、結果的に幼い命を守ることはできなかった。課題はどこにあったのか。

「次から次へ…」 1度の会議で300~400事例

 今年8月末、全身やけどを負って死亡した新村桜利斗(おりと)ちゃんは、母親とともに、虐待のリスクがあるとして摂津市が主体的に見守ってきた家庭だった。市が得た情報は摂津市を所管する府吹田子ども家庭センター(児童相談所)と適宜共有することになっていた。

 「現状の会議のシステムでは市と府の間に危機感の共有の漏れが生じやすい」。行政の対応を検証するため、府が設けた有識者部会の部会長に就いた才村純・東京通信大教授(児童福祉)は今月6日の初会合後の取材でこう述べた。

 指摘したのは、市と児相が4カ月おきに支援対象の家庭の近況を確認する「進行管理会議」のことだ。1回の会議で300~400事例を取り扱うという。

 市などによると、桜利斗ちゃんについては、頭頂部に原因不明のたんこぶができるなどのけがが4~5月に複数回あった。母親の知人は6月、同居を始めた交際相手による虐待が疑われるとの情報を市に寄せた。

 だが、7月の進行管理会議では桜利斗ちゃんについて、保護の緊急性は低いとの評価が据え置かれた。

 才村さんは「会議では次から次へと報告がなされ、形骸化しやすい。具体的な情報が市から児相に伝わらなかったのでは」とし、改善の必要性を説く。

 進行管理会議などで虐待のリスクが高いと判断されれば、「個別ケース検討会議」で支援方法を変えるかなどを集中的に議論する。ただ通常は1事例につき1~2時間かかるため、多数の事例について開催することは困難だ。

 児童虐待を専門に取り扱う児相と比べ、市町村は態勢が薄く、人材不足も慢性化しているとされる。

 摂津市の場合、担当の家庭児童相談課の職員は12人態勢で、実際は社会福祉士ら5人が年間数百件の対応にあたってきたという。森山一正市長は9月末の記者会見で、「マンパワーや専門職の数が的確だったかどうかは検証中」と述べた。

 虐待事件が相次ぎ、国は全国の児相で働く児童福祉司を2千人規模で増やす計画だが、才村さんは「対照的に市町村は置いてけぼりな印象。人事異動の繰り返しで専門性を有する職員が育たないのも構造的な課題だ」と危機感を示す。

 市町村が主体的に支援している家庭についても、児相がより積極的な役割を果たすようルールを見直した自治体も。福岡県はこの夏から、市町村と児相が対応を協議した家庭については、児相側が内部で虐待リスクを再検討することにした。

 県内では昨年4月、篠栗(ささぐり)町で5歳の男児が餓死し、母親と知人が保護責任者遺棄致死罪で起訴された。今年2月に飯塚市の3人の子が遺体で見つかり、3月には田川市で子3人と母親が死亡した。いずれも市町が支援していた家庭だった。

 県の有識者部会は7月にまとめた検証報告書で、児相がリスク判断を「市町任せ」にしていたことを問題視した。部会長を務めた安部計彦(かずひこ)・西南学院大教授(児童福祉)は「児相がもっと積極的に判断に関わるべきだと考えた」と話す。桜利斗ちゃんの事例についても、「児相がリスクをしっかり検討すれば、市の対応が不十分だと指摘できたかもしれない」とみる。

「たたいた」の相談 けがの目視確認せず 保育所にも連絡せず

 大阪府摂津市は13日、8月末に死亡した新村桜利斗(おりと)ちゃん(3)への対応をめぐり、5月6日に母親から「交際相手が桜利斗ちゃんをたたいた」と相談を受けた直後にけがを目視で確認していなかったことを明らかにした。これまで市は「5月11日に保育所を通じて左耳付近にあざを確認した」と説明していたが、保育所側には当時、相談内容を知らせていなかった。保育所が11日にあざを見つけ、6月の定期報告に合わせて伝えてきたという。

 事実と異なる説明をしたことについて市幹部は「情報が整理できていなかった。(5月の時点で)保育所から特段の連絡がなく、安全な状態だと考えていた」と釈明した。

 市のマニュアルでは、虐待が疑われる情報を把握した場合、原則48時間以内に子どもの状態を目視確認することが求められる。市は「母親が自ら打ち明け、切迫した様子とは見受けられなかった」と説明した。

 市は「対応の是非は府の検証部会の判断を待ちたい」としている。