ガソリンの値上がりは、これからの物価高を象徴するものだ。エネルギーの高騰はしばらく続きそうで、家計や企業は我慢を強いられる。コロナ禍による低迷から抜け出そうとしていた経済全体にもマイナスとなる。
1年間の家計負担、2万8千円増える恐れ
ガソリンをはじめエネルギー価格が上がれば、いろいろなところに波及する。直接的なところではマイカーやタクシー、航空機などの燃料がある。
タクシー大手の日本交通によると、昨年と比べて燃料のLPガスは2割ほど高くなっている。担当者は「運賃などに転嫁できる仕組みがなく収益を圧迫する」。エコドライブをいっそう心がけるよう、乗務員に呼びかけているという。
国際自動車によると、LPガスの末端価格は過去10年で最も高い水準だ。担当者は「コロナ禍でやれることは実施済みだ。今は耐えるしかない」と話す。
日本航空と全日本空輸は、燃料価格の上昇分を転嫁する燃油サーチャージが上昇している。日本発の旅客便で300~7700円だったものが、10、11月発券分は600~1万1600円になる。10月の燃料相場が反映される来年2月の発券分は、さらに上げる可能性も出ている。
燃油サーチャージはコロナ禍で価格が下落した昨年6月にゼロになったが、価格上昇を受けて今年6月発券分から復活した。転嫁しきれない部分もあるため、日本航空の担当者は「エンジンをまめに掃除したり着陸時の逆噴射を抑えたりして、少しでも燃料を節約している」という。
牛丼チェーンの吉野家ホールディングスの河村泰貴社長は13日の2021年8月中間決算の会見で、原油価格の高騰について「注視している。長く続けば来期に向けて影響がでるかもしれない」と述べた。
食料品などでは原材料高による値上がりに、エネルギー高騰が追い打ちをかけそうだ。雪印メグミルクと明治は10月1日の出荷分から、マーガリン類など家庭向けの計23商品を希望小売価格(税抜き)で5~30円上げた。大豆や菜種の相場が産地の天候不順や中国の需要増加などで上昇したという。サラダ油やキャノーラ油などの食用油も値上げされている。日清オイリオグループとJ―オイルミルズは11月1日から、出荷価格を1キロあたり30円以上上げる予定だ。今年に入って値上げは4回目で、上げ幅は4回で1キロあたり130円以上に及ぶ。
足元の原油高は工場の燃料費や物流コストをさらに押し上げる可能性がある。円安傾向もあって、大手食品メーカーはさらなる値上げについて含みを残す。
第一生命経済研究所の永浜利広・首席エコノミストは、今回のエネルギーや食料品の高騰は、賃金が上昇してモノがよく売れることで起こる「良いインフレ」ではなく、原材料の高騰で物価が上がる「悪いインフレ」だという。原油の指標となるドバイ原油の先物価格が今年度後半に1バレル=平均80ドルで続けば、今年10月から1年間の家計負担は2万8千円ほど増えると試算する。
「生活必需品が値上がりし、所得が伸びないなか、相対的に低所得者層の負担感が高まる。個人消費が落ち込めば、景気に悪影響を与える」(初見翔、山下裕志)
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