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「認知症になりかけで…」 本を求めた女性、出版社の電話を鳴らした

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若松真平
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 兵庫県明石市にあるライツ社は、メンバー6人の小さな出版社だ。

 社名の由来は「write」「right」「light」。

 「書く力」で「まっすぐ」に「照らす」という意味が込められている。

 京都市の出版社に勤めていた大塚啓志郎さん(35)が中心となって、2016年9月に設立。

 文芸書や実用書、ビジネス書から芸術書まで、自分たちが世に知ってもらいたいテーマを手がけている。

 今年9月に出版したのが「認知症世界の歩き方」(著者・筧裕介さん、監修・認知症未来共創ハブ)だ。

 認知症がある約100人へのインタビューを元に、「認知症の人が実際に見ている世界」をスケッチと旅行記の形式で紹介している。

 既存の本やインターネットの情報は、医療従事者介護者の視点に基づいたものばかりで、本人の視点がほとんどない。

 「困っていることはあるのに、自分の口で言ってもうまく説明できない」という、本人の気持ち。

 「本人に何が起きているのかわからないから、どうしたらいいのかわからない」という、周りの気持ち。

 そのすれ違いを少しでも減らすことができないか、という思いで企画した本だった。

会社の電話が鳴って

 書店に並んで約3週間後の今月6日、ライツ社の電話が鳴った。

 午後7時過ぎのことで、いつもであれば誰もいない時間だが、この日は入稿作業のため大塚さんが残業していた。

 電話をとると、相手は大きな声でゆっくり話すおばあさんだった。

 「本の注文をしたいんですけれど……」

 かかってくるのは営業関係か、書店からの注文がほとんど。

 ただ、当日朝に新聞に書籍広告を載せていたので、それを見た個人からの問い合わせだと思った。

 「お近くに書店はありますか? 在庫がなくても、書籍名を伝えれば取り寄せてもらえますよ」

 出版社から直接送ると、送料や振込手数料などがかかるので、書店を案内しようと思った。

 すると、「あるにはあるんですけど、駅まで歩いて、そこから3駅くらいのところで……」と言う。

 体の具合が悪くて買いに行けないのかと思って尋ねると、思いも寄らなかった答えが返ってきた。

 「認知症になりかけで。だか…

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