第1回同世代の本音、記事のどこに 政治分からなくても…「参加していい」

堀越理菜
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若者×記者が見る衆院選 違和感をたどって
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 毎日つくっている新聞には、はっきりと考えを語る人たちは載っていても、20代の私や周りの同世代の気持ちは映し出されていない――。

 9月の週末、政治家の演説をメモしながら「原稿にどう書こうかな」と思いをめぐらせていたときだった。ペンを止めて、そう感じることが最近多い。

 若者のモヤモヤした思いは、自分が書く原稿からはこぼれ落ちているのではないか。

 日々の取材を振り返る。締め切りまでに原稿をまとめることに必死になり、分かりやすい意見を語ってくれる人や原稿にはまる言葉を探してしまうことがある。入社3年目にしてはじめて取材する衆院選では、よりそうした「罠(わな)」にはまりそうな気がしてならない。

モヤモヤに共感、でもノートには…

 6月、熊本大学に行き、コロナ禍の学生に無料で食料品などを配る活動を取材した。学生たちに話を聞くと、生活が苦しい中で東京五輪が開催されることへの複雑な思い、ワクチン接種の順番はいつになるんだろうか、といった不安な気持ちを語ってくれた。

 五輪へのモヤモヤした思いには共感した。ワクチンの接種時期は直前の熊本市の発表を記事にしていたので、情報が届いていないことを思い知った。でも、ノートにメモは残っていなかった。その日の原稿にうまく盛り込めず、「支援はありがたい」といったコメントを書いて、次の仕事に向かった。

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堀越理菜記者の取材ノート=熊本市、藤脇正真撮影

 その一方でこう思う。世の中の人たち、とくに同じ世代は明快に語れる自分の意見を持っているのだろうか。私は自分の考えをなかなか「うまく語れない」ひとりだ。

平日の私と全く違う自分にスイッチ

 仕事中は、衆院選に向けた取材をし、熊本に関係する国の動きも気にする。ただ休日になると、インスタグラムでカフェを探すなど平日の私と全く違う自分にスイッチする。大学時代の友達と電話してすっきりしたり、熊本県内をドライブして温泉に入ったりする。

 政治について、自分なりに思うところはあるものの、社内の先輩記者のような知識はないので、意見は表に出さない。投票には行くが、なぜその候補者を選ぶのか、論理的で納得感のある説明をする自信はない。

 もしも街中で記者から「今度の衆院選について」と取材されたら、いつも私が期待する、端的で筋が通った分かりやすい主張はできず、原稿に採用されそうにない。

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総局で電話取材をする堀越理菜記者=熊本市、藤脇正真撮影

政治との距離近くても、選ぶのは「ウケが良い」

 だけど「何も考えていない」のではない。「なんとなく」の思いはあるが、表に出していなかったり、賛成や反対にまでたどり着けていなかったりするのは私だけだろうか。

 朝日新聞のニュースサイト「ウィズニュース」で、そんな私のモヤモヤを伝えたところ、「意見を求められてもこんな素人目線のこと言っていいんだろうかと恥ずかしくなっていた」「あえて無関心を装っている人めっちゃいると思う」などと反応をもらった。

 そんな正直で本音ベースの人たちの姿を、私たちは日々の記事に映し出せているとは思えない。新聞は「投票に行きましょう」と伝えながら、「よく分からない」という声やモヤモヤした思いを知らず知らずのうちに切り捨てて、政治から私たちをより遠ざけていないだろうか。

 こんな時、いつもなら若者の政治参加を呼びかける活動をしている人を探して取材するかもしれない。でも、安易な答え探しは禁物だ。今回はあえて「普段は話さないけど、政治についてどう思う?」と身近な友人たちに話を聞いてみることにした。

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堀越理菜記者のICレコーダー=熊本市、藤脇正真撮影

 大学時代の後輩で東京都内に住む女性(23)は、持病で車いすを使っている。周りの友人に比べて「福祉の政策は自分の生活に関わる」と政治との距離は近いと話す。それでも友人との話題には、「ウケが良い」スイーツビュッフェのことなどを選びがち。それってどうしてだろう。

 「スイーツの話はネットなどで仕入れた情報を伝えれば良いけど、政治の話は相手に突っ込まれたときに、自分も相手も納得させられる意見を出さなきゃと思う。政治を話すのはお互いエネルギーを使う」

 数年前にアイドルのコンサートで知り合った神戸市の看護師の女性(26)にも聞いてみた。政治に興味ある?

 「極論言うと全然興味ないっていうか、選挙に行こうと思わんかな。直接自分に降りかかる事柄が見えないから関係ないなと」

 でもコロナ対策では、政治の決定が、私たちの生活や仕事、アイドルのイベント開催にも関わっていない?

 「うーん。コロナはこれどうにかできる人いる!?ってあきらめじゃないけど、何周か回って興味がなくなってきた」

 私が休日に行く熊本市内の美容院でアシスタントをしている女性(21)は「家族と投票には行く」と答えてくれた。

 「政治への関心は全くないわけじゃないし、私たちに関係があるので考えたいけど難しい」

 仕事でくたくたになる毎日で、政治を考える余裕はない。政治家には、若者のことを考えてくれているような発信をしてほしいと思うけど……。

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堀越理菜記者のリュックの中身=熊本市、藤脇正真撮影

 それぞれスタンスは違うけれど、同世代に共通して感じるのは、身近な暮らしと政治との「距離」だった。

 別の取材で出会った自分の問題意識を政治に訴えている大学生も、「なかなか声が届かない」と言っていた。

 政治家って若者のことを考えている? 投票に行ったら何か変わるの? 詳しくないのでわからない――。モヤモヤの原因は、こんな単純な疑問や諦めからくる政治の「私たちのものではない感」ではないか。

「政治のアウトプットは、インプットに影響される」

 同世代が抱く政治への「わからなさ」の理由は、何となく分かった気がする。では、政治家の側はどう思っているのか。投票にあまり行かない若者のことは眼中にない?

 熊本で記者をする者には身近にして、有権者の投票行動にくわしい政治学者でもある蒲島郁夫熊本県知事に聞こうと思い、県庁5階の知事室を訪ねた。

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若者は政治とどう向き合うべきなのか。蒲島郁夫・熊本県知事に聞いてみた=2021年10月7日、熊本県庁、伊藤秀樹撮影

 蒲島さんはまず、「熊本の将来をつくる若者世代の意向に敏感でいることが、政治家として大事だという観点で県政を運営している」と語り出した。政治学者の目で見れば「世界中の政治家は投票してくれる人に敏感に反応する。年齢が低い方が投票参加が少ないというのが世界的な傾向でもある」と教えてくれた。

 こんな言い方もした。「政治のアウトプットは、インプットに影響される」と。つまりは、若い世代が政治から離れれば離れるほど、政治家によってできあがる制度は、若い世代にとって不利になる。政治的な不平等はそうして生まれてくる。だから、投票に行かないことは「自分だけが困るんじゃなくて、その世代全部が困るようになる」と。

 何年に一度の投票は、有権者にとって政治に一番参加しやすい機会である。そして「有権者自らの意思を政治に反映する大切な機会は、そんなにたくさんない」。

何も分からない人も「参加していい」

 同世代と話して感じた「政治は若者のことを考えていない」わけではなさそうだ。「私とは関係ないように感じる」といった話も実際は違う。自分を含めて「分からない」「関係ない」と政治に距離を置いてきた結果、ますます政治が遠ざかって、さらに「分からなくなる」といった「モヤモヤのスパイラル」にはまっているのではないか。

 逆説的だけど、政治を「関係あるもの」や「若者の方を向いたもの」にするには、みんなで政治に一歩でも近付いて、思いを伝えることが近道かもしれない。

 「では、選挙に行きましょう」で終わってしまえば、新聞によくある決まり文句で、一若者としてがっかりする。記者としてできることは何か。

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近づく衆院選を前に熊本市役所近くに設置されるポスター掲示場=2021年10月6日、熊本市中央区、堀越理菜撮影

 なにより「分からない」という声を切り捨てないこと。「分からない」という気持ちが存在しない新聞を作ることは、「分かっていないと参加できない。意見を言ってはいけない」という空気をつくってしまうことにつながる。

 声を上げている人も、あいまいだけど何となく意見を持っている人も、何も分からない人も「参加していい」のだ。モヤモヤした声に向き合った記事を出すことで、そんなメッセージを伝えたい。

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総局の自席に座る堀越理菜記者=熊本市、藤脇正真撮影

 今回の取材で「政策を分かりやすく説明してほしい」「どういうふうに生活につながっているのか知りたい」「見出しに知らない言葉がある時点で開かない」。そんな具体的な提案ももらった。やれることはまだまだある。

 企画を進めるなかで、新聞のいつもの読者の外にいる人たちに伝える難しさも感じた。仕事に慣れようとしてきた私と同世代との距離は、すでに広がっているのかもしれない。それでも、同世代のモヤモヤを共有し、言葉にして伝えようともがくことが、いまの私にできるアプローチだと思う。

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新聞に目を通す堀越理菜記者=熊本市、藤脇正真撮影

 10月4日、新内閣発足について街の人に取材した。これまでは政治に関心があって、すらすらと語ってくれるのでないかと勝手に見込んで、上の世代に声をかけることが多かった。でも、この日は「よく分からないけど…」で始まる声も大事だよな、と10~20代にも声をかけてみた。「分からない」と言われても、5分、10分と耳を傾け続けると、ぽつりぽつりと自分の考えを話してくれた。

 別の日には、同じ世代でも社会問題に関心を持って活動している大学生を取材した。「こんなすごい人がいる」だけでは、遠い話と思う同世代もいるかもしれないと、共有できる気持ちや言葉を探してみた。

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商店街で取材をする堀越理菜記者=熊本市、藤脇正真撮影

 モヤモヤを聞き取る以上に原稿で伝えることは難しい。デスクを納得させることも難題だ。新聞にありがちな定型の原稿にすれば、すんなり通るかもしれない。でも、それでは意味がないと葛藤を続けたい。(堀越理菜)

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総局でデスクと話す堀越理菜記者=熊本市、藤脇正真撮影