北九州市がめざす洋上風力発電の街 日本製鉄の城下町が挑む産業集積

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北川慧一
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 北九州市は鉄の街だ。1901年に官営八幡製鉄所が操業を開始し、いまも周辺には鉄鋼関連の工場が立ち並ぶ。この街が、風力発電の産業集積地をめざして動き出している。

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北九州市の沖合では洋上風力発電の実験が行われている=2021年10月6日

 かつて深刻な公害で「死の海」と呼ばれた洞海湾に近い響灘地区では、海沿いに17基の風車が回る。15キロほど沖合には、2枚のブレード(羽根)を持った風車が浮かぶ。水深約50メートルの海域で、安全性や経済性を見極める実験が行われている。

育んだ技術 風力発電に活用

 響灘地区の一角に、日本製鉄グループの広大な敷地が広がる。東京ドーム12個分の広さで、加工工場が立つ。鋼鉄製の土台である基礎をつくる。来年には、高さ約200メートルにもなる風車につかう基礎の製造が始まる。1基あたりの重さは約750トンあり、据え付ける場所まで船で運んでいく。

 基礎は鋼管をやぐらのようにつなぎ合わせていく。形状は複雑で、高い溶接技術が必要とされる。工場を運営する日鉄鋼構造の能勢哲郎社長(58)は「半世紀にわたって海洋鋼構造物をつくってきたノウハウを生かしたい」と意気込む。

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巨大な鋼鉄製の基礎。後方には風車も見える=2021年9月、北九州市若松区(写真内の一部にモザイクをかけています)

 風車はさらに大型化が見込まれるが、工場の敷地にある800メートル近い岸壁が積み出しで役に立つ。能勢社長は「巨大な基礎を扱える工場は全国でも少ない」と話す。

 世界的な脱炭素の流れを受け、政府は二酸化炭素を出さない風力発電に力を入れる。発電能力全体に占める割合を19年の0・7%から30年に5%に引き上げる目標を掲げる。なかでも騒音などの心配が少ない洋上風力への期待は大きい。発電能力を30年までに現在の1千倍を超える1千万キロワット(原発10基分)とする。

 日鉄鋼構造を含む日鉄のエンジニアリング部門の子会社は洋上風力向けの売上高を現在の数十億円から30年には1千億円規模に引き上げる計画だ。基礎のほか海底ケーブルや変電設備などの売り上げも見込む。能勢社長は「洋上風力は案件ごとの規模が大きい。近くに集積する工場とも連携したい」と話す。

 円高不況や海外勢の台頭により、高度経済成長期に4万人以上が働いていた八幡製鉄所の従業員は現在10分の1以下になった。北九州市の鉄鋼業の製品出荷額は80年代は1兆円を超えたが、18年は8400億円まで縮んだ。

産業集積都市へ 再びドイツに学ぶ

 鉄の街で育んだ技術やインフラを活用して新産業を育てることはできないか。日本の近代化を支えた官営八幡製鉄所が操業を始めて100年余り。鉄鋼業の衰退に向き合う北九州市は再びドイツに範を求めた。市の幹部らは10年以降、ドイツ北部の港湾都市ブレーマーハーフェンを4度にわたって訪れ、風力発電による復権を探った。

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