第2回政治は異世界?まだ感じてしまう自分 同属性の人ばかり、に向き合う

太田原奈都乃
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若者×記者が見る衆院選 違和感をたどって
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 7月15日、山口県南西部の宇部市。衆院山口3区の中心都市では、秋に控える衆院選に向けて熱気が早くも高まっていた。

 選挙戦に名乗りをあげる候補者の集会は、市内で最も威厳漂うホテルの大ホールで開かれた。真夏の暑さなのに、スーツ姿の支援者が100人ほど。見渡すと父親と同じくらいか、さらに上の世代の男性が多い。私と同じくらいの年齢の人はわずかだった。

 会場に向かう途中、さまざまな人とすれ違った。自転車をこぐ学生、子どもを抱っこする女性、ゆったりと歩く老夫婦。性別も属性もばらばらの人たちが行き交う街中とは違い、会場には限られた層の人だけが集っているように見えた。私は自分がその場から少し浮いた存在のように感じながら「ここは異世界みたいだな」と考えていた。

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太田原奈都乃記者=山口市、金子淳撮影

山口では異例の「政争」と向き合うことに

 4月に東北から異動し、自民党の大物議員らが激しくぶつかり合う山口3区の取材を続けてきた。

 現職は、当選すれば11回目で官房長官を務めたこともある河村建夫さん(78)。そこに「将来の総理・総裁をめざす」と、文部科学相などを歴任してきた林芳正さん(60)が立候補を表明した。普段の国政選挙は「無風」が続く山口県で、地方議員を巻き込んだ異例の「政争」と向き合うことになった。

 北は日本海から南は瀬戸内海まで。3人の先輩記者とともに広い選挙区内を回る。私は3区で人口が最も多く、選挙の勝敗を左右すると言われる宇部市などを担当する。候補者を追い、支援者の集会に通った。東京・永田町で取材する政治部の記者と情報を共有すると、最新の情勢が少しずつ見えてきた。

 でも、毎週のように現場に通っても「異世界感」は消えなかった。

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柳居俊学・山口県議会議長から推薦状を渡された林芳正氏(左)=2021年7月15日午前10時34分、山口県宇部市、高橋豪撮影

 河村さんと林さんのぶつかり合いの背後には、県内政界の主導権争いに加えて、2人が所属する自民党内の派閥「二階派」と「岸田派」の対立があった。永田町で繰り広げられる権力闘争が、山口3区の情勢を動かす。そんな一面を知ったとき、目の前の現場がさらに遠いもののような気がした。

 入社から2年半。新聞記者の仕事に就いたことで、取材で知った出来事を「私」の問題として考える時間が増えた。

 初任地の盛岡総局では、東日本大震災で家族を亡くした人を取材した。取材からの帰り道、自分の命、自分の大切な人の命を守るためにできることは何だろうと考えた。

 山口総局に転勤となり、海へ行くと、海岸に大量のごみが流れ着いていた。環境問題はこんなに身近なところにあったんだと知り、毎日のごみの出し方を見直した。

 山口3区の取材現場は違った。半年たっても「遠い世界」のままで、自分のことと考えるのは難しかった。

上の世代の男性が集まる光景が続く

 手帳を見返してみると、7月18日には、東京と山口をつないで国会議員が政策を語るオンライン講演会。8月26日には、選挙戦に向けて党派を超えた連携を訴える集会。10月7日の参院補欠選挙の告示日には、山口市内の公園駐車場で候補者の出陣式があった。女性向けの勉強会や若い世代が集まる催しも取材したが、取材現場のほとんどで年長の世代の男性が集まる光景が続いた。

 集会は平日夜や週末に開かれることが多い。自宅のある山口市から車で片道約1時間かけて会場へ。いつもより身構えて取材に向かい、仕事が終わるとホッとする。そんな毎日だった。

 「違和感を持つのは、取材が足りないだけかもしれない」。率直な感想を、総局の先輩記者に言うのにはためらいがあった。7月中旬、入社3年目の同期記者と始めた企画で自分が感じてきたことを恐る恐る話してみると「おかしいと思うのが普通だと思う」という言葉が返ってきた。「私はこの違和感をどうにかしたいんだった」。そう思い直した。

「女性だから覚えちょったよ!」…女性だから?

 9月28日の夜。3区内で地元の市議会議員の男性に鉢合わせた。一度話したことがある。男性は山口弁でさらりと言った。

 「あーあなたね、女性だから覚えちょったよ!」

 「覚えてくださってありがとうございます」と、私は頭を下げた。帰り道にそのやりとりを思い出してふと考えた。女性だから?

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県庁記者クラブで取材する太田原奈都乃記者=山口市、金子淳撮影

 政治の現場だけではない。報道する側も、山口のような地方の現場では特に女性の数は少ない。単に女性がいるのが珍しく、覚えやすかったということだろうか。それとも、何か特別な意味があるのか。そもそも、どうして女性の数が増えないのか――。

「自分の固定概念と違う世界だから『違和感』?」

 今月5日、こうした経験を朝日新聞のニュースサイト「ウィズニュース」に書いた。さまざまな意見や感想が寄せられた。一つひとつ読み、考えた。

 「自分の固定概念と違う世界だから『違和感』?」

 最も胸に刺さったのは、この言葉だった。いま思えば、年齢や性別の違いで目の前の世界を見て、「遠い」と自分から距離をとっていたということかもしれない。

 それでも政治の世界に女性が少ないのは間違いないし、政治に携わる人の年代も偏っている。

 「うっかりすると『そういうもの』と思ってしまう」「『異世界』に入り込んでも異世界感を感じられない。気づかねば」

 そうした状況に慣れてはいけない、との戒めの声に背中を押された。

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太田原奈都乃記者のノートPC=山口市、金子淳撮影

 「女性だから覚えちょった」と言われた経験にも多くの意見や指摘があった。

 「若い女性だから覚えてもらえるなら得でしょう」「『若い』『女性』を売りに出しておきながら批判するなんて」

 記者として読み応えのある記事を社会に届けることを第一に考えた時、「若い女性」に向けられる視線や言葉は気にせず、時にはそれをうまく活用する。それくらいの気概でやったらいいじゃないか――。そんな向き合い方を教えてくれた社内の先輩もいた。

 そうやって気持ちを切り替えることはできる。ただ、そう思うことで自分を納得させても、この先何も変わらない。それでよいのだろうか。

「数が多い」側に身を置くことが不安な人もいた

 数が多い側にいる人は、私の違和感についてどう思うのか。あの時の市議にもう一度会ってみようと、車を走らせた。「女性だから覚えちょった」の言葉を覚えていますか――。

 70代の男性は首をかしげた。「意識していなかった」。どうして言葉に出たのか、考えてもらう。「記者の方々には女性が少ない。じゃけん印象に残ったんじゃないか」

 普段の取材の現場では、自分よりずっと年上の男性が多く、「遠い世界」と感じると話してみた。市議はこんな答えを返してきた。「年齢は足かせだ」

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太田原奈都乃記者のカメラ=山口市、金子淳撮影

 「足かせ」ってどういう意味? メモをとる手を止めた。「あなたから見たら私はかなりの『年寄り』に見えるでしょう。年だな自分の役には立ってくれないだろう、って思うんじゃないか」

 市議のような高齢の男性は、山口3区の取材現場では大多数を占める。それでも市議は「『政治は数の力なり』と言うでしょう。私はずっと市議会で少数派だった。多数決のルールがあるから主張してもなかなか思い通りにならなかった」と、自分が常に「多数」の中にいたわけではないと語った。

 年齢や性別の違いだけで多数派かどうかはひとくくりにできない。数が多い立場に身を置くことで周囲との間に距離が生まれてしまうのではと、不安に思う人もいるのだと知った。

自分の中で異世界感への向き合い方が見つかった

 もし、山口3区の現場に若い女性ばかり多くて、中年や高齢の男性が少なかったとしても、私はそれがいいとは思わない。限られた層の人だけが政治を動かしているなら、街中にいるさまざまな人の声は反映されない。きっと、自分の声、自分の存在を受け止めてもらえるのだろうか、という不安を誰もが感じてしまうから。

 現場に若い世代や女性が少ないなら、その立場の一人として責任を持つこと。自分の視点から見えた疑問や不安は口に出し、伝え続けていく。それが、まずは私にできることだと思う。

 でも、それだけでは足りない。立憲民主党から3区に立つ県連副代表の坂本史子さん(66)はこう言った。「男性か女性かという性別は本当は関係ない。違う立場からも考えられる問題意識を持っているかが大切じゃないか」

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ガンバロー三唱をする坂本史子氏(中央)ら=2021年9月30日午前10時22分、山口県宇部市東見初町、太田原奈都乃撮影

 数の多い立場にいる人たち、私にとっては「異世界」の中にいるように見えた人たちの視点からも、目の前の世界を見ようとすることはできないか。そうすることで、もっと早く、お互いの側から距離を縮めていくためのヒントが見つかるかもしれない。

 自分の中で一つ、異世界感への向き合い方が見つかった――。そんな風に考えていた頃、山口3区の情勢が動いた。

 10月13日、衆院選公示を6日後に控え、選挙戦への準備を進める河村さんと林さんの公認争いが最終盤に差し掛かった。永田町の自民党本部に呼ばれた2人を追いかけて、私も取材に向かった。現職だった河村さんが、幹事長の甘利明さんから受けた事実上の「引退勧告」を受け入れることで、3カ月にわたった山口3区の公認争いは幕引きとなった。

 翌14日に衆院は解散した。万歳を終えて、衆院本会議場から議員が続々と出てくる。年長の男性ばかりの人波を前に、山口3区の取材現場を思い出した。同じ光景が日本の政治の中心地にもあった。「この光景を変えるのは大変なことだろうな」。政治の世界は遠く、手の届きそうにない「異世界」――。やっぱりそう感じてしまう自分がいた。

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報道陣の取材に応じる河村建夫氏=2021年6月26日午後6時30分、山口県山陽小野田市栄町、太田原奈都乃撮影

 15日。山口に戻る飛行機の中で、自分に何ができるかを考えた。

 4年ぶりのせっかくの衆院選。立場や属性、住む世界が違う人たちが自分の思いをぶつけ合い、人と人が交じり合う機会だからこそ、いつもと違う社会の一面が見えてくるかもしれない。

 保守分裂という「大政争」は収束した。自民党内の政局の火が消えたいま、山口3区の何を取材し、どのように伝えていくかが私に問われている。

 夜、取材先に電話した。かつては地方政治家、いまは候補者の支援に熱心に加わっている高齢の男性。山口3区のいまをどうみているか、これからの動きは――。これまでだったらこの話題で終えていただろう。

 でも、もう一問聞いた。「政治の場に女性や若い人がもっともっと増えてほしい。メディアにも。どうしたらいいと思いますか」。うーんとうなる低い声の後、返事があった。

 「難しいなあ。今度事務所に来たらゆっくり話をしようかね。考えておく」

 「おかしい」「どうして」という自分の直感に正直に向き合ってみる。時間が経ち、そこに入り込むほど、私は違和感に慣れていってしまうだろう。だから口に出し、「どうしたら変えていけるのか」と、選挙取材の現場で出会うさまざまな人と意見をぶつけ合ってみたい。(太田原奈都乃)

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総局で電話対応する太田原奈都乃記者=山口市、金子淳撮影