非正規雇用 46歳の無職男性「人並みの生活がしたい」

上田雅文
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 6日、さいたま市大宮区のJR大宮駅前にある大宮ソニックシティの地下展示場。

 埼玉労働局、同市、ハローワーク主催の「若年者等対象就職面接会」が開かれていた。市内が勤務先の20社がブースを設けた。警備や食品関係の4社から話を聞いた春日部市の男性(46)は「早く仕事を見つけないと」と言った。

 男性は3月まで、東京都墨田区の人気観光施設で客の誘導係のアルバイトをしていた。ひと月の収入は約12万円。独身で実家暮らしなので生活はできた。だが、コロナ禍で入場者は激減し、勤務シフトが徐々に減り、最後は仕事を失った。「まじめに働いているのに、なぜ」と思った。

 子どものころから手先が器用で、細かい絵を描くのが好きだった。高校卒業後、美容師の専門学校に入り、県内の美容室に就職した。先輩たちの仕事姿に魅せられた。しかし、体調を崩した。髪染めの薬剤などが体に合わなかった。やむなく1年で退職した。

 バブル経済崩壊のあおりをかぶった就職氷河期世代だ。新卒一括採用の機会を逃すと、再就職は厳しかった。求人雑誌で正社員の募集を探して面接を受けても、採ってくれる会社はなかった。スーパーの総菜づくり、ボウリング場の従業員、コンビニのレジとアルバイトを転々とした。

 この世代で働いている人の3割近くが男性のようにアルバイトや契約社員などの非正規雇用とみられる。自民党が政権に復帰するきっかけとなった2012年の衆院選で、男性は「失敗しても、がんばれば仕事に就ける社会になって欲しい」と安定政権を望んで自民候補に投票した。ただ、身の回りの生活は変わらない。14、17年の衆院選では変化を求めて野党候補に一票を投じた。

 コロナ禍で下向きになったものの、自民党政権下で雇用動向を示す「有効求人倍率」は18年には1・61倍と45年ぶりの高水準となった。100人の求職者に対し、企業から161件もの求人があることを意味した。でも、男性にはそんな実感はなかった。

 正社員の雇用を安定させる調整弁にされてきたのが非正規雇用の社員といわれた。男性にとっては契約社員への道も遠かった。

 批判を受け、安倍政権は19年、就職氷河期世代の正規雇用を3年間で30万人増やす目標を掲げた。それを受け、埼玉労働局などは毎年実施していた「若年者対象就職面接会」を「若年者等」に名称を変え、「おおむね49歳」まで対象者が広げられた。

 だが、男性を含め、面接会に参加したのは17人にとどまった。国の施策が、それを必要とする人たちに届いていない。20年の正規雇用はほぼ横ばいで目標は遠い。いまだ無職の男性は言った。「年相応に働き、人並みの生活がしたいだけなのに」(上田雅文)

「雇用」をめぐる主な動き

2013年

・「ブラック企業」が「新語・流行語大賞」のトップテンに

14年

総務省が11月に発表した労働力調査で非正規雇用が2千万人を超える

15年

・少子高齢化を受け、安倍政権が1億総活躍社会の実現を目標に掲げる

電通の女性社員が自殺し、過労死が問題に

17年

・「同一労働同一賃金」の実現、女性や若者が活躍しやすい環境整備などを盛り込んだ「働き方改革実行計画」を政府が決定

19年

・総務省が18年平均の完全失業率が2.4%と発表。26年ぶりの低さに

・安倍政権が就職氷河期世代支援のため、3年間で正規雇用者を30万人増やす目標を掲げる

21年

・経営側の反発を押し切り、雇い主が働き手に最低限払う最低賃金の大幅引き上げを菅政権が実現