幸せの絶頂、漫画家は目を患った 重荷でしかない私を救った彼の言葉
2016年夏、漫画家の見原由真さんは自宅で倒れた。
LINEマンガで「アーチェリーボーイ」の連載を終え、新連載の準備をしていた時だった。
気持ちが前のめりになっていて、睡眠時間を削る日々。
昼夜逆転の日が増え、ひとり暮らしというのもあって食事を抜く日も多かった。
数カ月前からせきが止まらなかったこともあり、体は限界だったのかもしれない。
倒れた後、自分で起き上がることができたので、しばらく自宅で療養することに。
不調が表れたのは、よりによって「目」だった。
光に過敏になり、テレビは真っ白に光っているようにまぶしくて、とても見ることができなかった。
そして、部屋のどこを見渡しても視界に砂嵐のような粒が広がっていた。
物の輪郭や文字などが、ユラユラと動いているように見えた。
まるで、いつも陽炎(かげろう)の中にいるようだった。
ビジュアルスノウと診断
眼科に行ったものの、病名や原因はわからなかった。
いくつも病院を変えてみたが、結果は同じだった。
ネットで症状を調べて見つけたのが「視界砂嵐症候群(ビジュアルスノウ)」という病気。
人によって見え方に違いはあるらしいが、ほとんど当てはまっていた。
見つけた論文をプリントアウトして眼科で見せると、ビジュアルスノウと診断された。
◇
漫画を描いてみようとしたが、ノイズで視界が揺れて、原稿用紙の白さですらまぶしかった。
サングラスをかけてみたが、1時間も机に向かうことができない。
描けない自分を認めたくなくて、毎日数分だけでもとペンを握ったが、限界だった。
決まっていた新連載は辞退した。
やりたいことやアイデアはたくさんあるのに、それを形にできない。
もどかしくて、情けなくて、周りの期待に応えられないことが申し訳なかった。
まさに人生の階段を転げ落ちている気分だった。
アニメーターの恋人は
当時つきあっていた恋人のタッペイは、アニメーターだった。
漫画とアニメで違いはあれど、締め切りに追われる激務は同じ。
それぞれ自宅で徹夜作業をしながら、スカイプで話し合う仲だった。
倒れる前、こんな風にプロポーズされていた。
「こんなに頑張っているやつ見たことない。オレと結婚してください」
目のことについては、「ちょっと調子が悪いかも」としか伝えていなかった。
余計な心配をかけたくなかったし、しばらくすれば治るんじゃないか、という期待もあったから。
治る気配がまったくなかったので、このまま隠しておけないと思った。
アパートに来てもらい、病気のことを告白した。
こだわりが強く、理屈っぽいことを言う彼は、話を聞きながらいろいろ考えてくれているようだった。
顔はよく見えなかったが、相づちや呼吸からそんな気配を感じた。
話を聞き終えたタッペイは、意外な言葉を口にした。
「わかったよ……。ここから…