個人も企業も「脱炭素」を模索 進む再エネ利用、国は原発も重視

紙谷あかり、亀岡龍太
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 全面南向きの屋根の上に、太陽光の発電用パネル、太陽熱の温水器用パネル、薪ストーブの煙突が取り付けられている。

 愛媛県大洲市に住む大崎義治さん(73)の自宅。昼間、家庭の電力は自分でまかなう。夜間は四国電力から買っていたが、この春、四国の電力事業に参入した企業に切り替えた。風呂や炊事に使う湯は、昼間に太陽熱で温めておく。

 この生活を大崎さんが始めたのは、2012年。国がこの年、太陽光発電などの普及を目指し、電気を定められた価格で電力会社に買い取らせる固定価格買い取り制度(FIT)を導入したのに合わせた。

 夏はヘチマの葉などで南側の窓を覆う「緑のカーテン」で涼を保ち、蒸し暑い数日だけエアコンを回す。冬場の暖房はシイタケ栽培農家から調達した薪をストーブで燃やし、各部屋に循環させる。

 山口県生まれ。関西で40年近く暮らし、09年、義母の暮らす大洲市に妻とともに移ってきた。大阪で市民の太陽光発電所づくりに携わった経験があり、新しく建てた平屋の自宅で、夢だったエネルギー自給生活を実現させた。

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 太陽光や風力、地熱、バイオマス再生可能エネルギーへの関心は、企業でも高まっている。

 全国有数の手袋産地である香川県東かがわ市。手袋メーカー「フクシン」は6月末、本社の屋根に太陽光パネルを設け、社内で使う電力の25%をまかなう取り組みを始めた。設置費用の一部はクラウドファンディングによる支援を受けた。自治体の補助金活用も検討したが、条件が合わず見送った。

 国連の持続可能な開発目標「SDGs」に共感。20年に打ち出したブランドの企画段階から、使う電力を再エネでまかなおうと社内で検討し、昨年12月、通常の電力から再エネに契約を変更した。いまは太陽光発電も含め、社内で使用する電力はすべて再生可能エネルギーだ。

 太陽光パネルの設置には約900万円かかり、月々の電気代の支払いも高くなったが、福崎二郎社長(53)は「それは『ブランド料』や『社会貢献料』。消費者に『この商品、良いよね』と思ってもらえるようになれば」と話す。

 普及が進む太陽光。資源エネルギー庁の統計では、FITで認定を受けた四国の太陽光発電設備(出力10キロワット未満)は、21年3月末で計6万571件(徳島9787件、香川1万6555件、愛媛2万3832件、高知1万397件)。12年末の計7564件(徳島1128件、香川2193件、愛媛2953件、高知1290件)の8倍に急増している。

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 地球温暖化への影響が懸念される二酸化炭素の排出抑制が課題となる中、菅義偉前首相は昨年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル(脱炭素)」を宣言。岸田文雄新内閣も踏襲する。

 経済産業省が今夏に示した新しいエネルギー基本計画案でも「再エネ最優先」を打ち出した。30年度の電源構成は化石燃料の比率をいまの計画の56%から41%に引き下げ、再エネの比率を22~24%から36~38%に引き上げる「野心的な見通し」を示した。

 一方で、原発の比率は20~22%で維持。再エネとともに「実用段階にある脱炭素電源」だとして、原発を重視する姿勢は変えていない。

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 11年の東京電力福島第一原発事故。再エネ中心の暮らしを目指してきた大崎さんは「フィクションみたいなことが現実になった」とショックを受けた。しかし、その後も、大手電力会社が国の規制などに縛られ、日本は原発依存からなかなか抜け出せないように見える。

 自宅の約20キロ西には、四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)がある。もともと原発否定派ではなかったが、「伊方への影響が懸念される、地震や阿蘇山の大噴火が起きないとは言えない」。伊方3号機の運転差し止めを求める訴訟に、原告の一人として加わった。

 「一人ひとりが少しずつ再エネ主体に暮らしを変え、原発や、二酸化炭素を排出する発電を減らしていきたい」と大崎さん。「3・11後、国内の全原発の運転が一時止まり、電力不足が懸念されたが、やり繰りできた。家庭の太陽光発電がもっと広まれば、原発がなくても国内の電源はまかなえ、社会は十分回る。個人や企業への再エネ導入支援策をさらに充実させてほしい」(紙谷あかり、亀岡龍太)

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 「原子力市民委員会」座長を務める龍谷大・大島堅一教授(環境経済学)の話 気候変動対策で二酸化炭素の排出ゼロを目指すのなら、化石燃料を使う石炭や火力などの発電は今後難しく、選択肢は再エネ発電か原発になる。原発は安全性にさまざまな問題があるほか、ウラン資源にも限りがある。地域分散型の再エネ発電が最も現実的で、今後も急増するだろう。ドイツの電源は再エネがすでに約4割。日本政府が掲げる2030年度で30%台後半という見通しの達成は難しくない。原発産業が衰退していくことを前提に、国は再エネ普及を一層進めるべきだ。