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熱海盛り土安全策、10年前に命令見送る 県と市「命の危険」は認識

板橋洋佳、川嶋かえ
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 静岡県熱海市で7月に起きた土石流被害につながった盛り土について、県と市が2011年、安全対策を講じるよう命じる「措置命令」を出すと決めた後に見送っていたことが朝日新聞が入手した内部文書などでわかった。業者側が防災工事を始めたことを理由に見送られたが、工事中断後も約10年間にわたって命令は出されないままだった。命令の対象となる業者への連絡が困難となっていたという。

 大規模土石流の起点となった盛り土は災害前、市に提出した計画と比べて、約2倍の量の約7万4千立方メートル、約3倍の高さの約50メートルになっていたとみられる。この盛り土を含む土砂が今年7月3日に大雨で崩れ、26人が亡くなり、1人が行方不明となっている。建物被害は132棟に上った。

 盛り土の危険性を行政側がいつ認識し、どう対応していたのかは明らかになっておらず、県や市が調査した結果を18日に公表する。

 複数の行政内部文書などによると、県と市は2007~10年、土地を取得した神奈川県小田原市の業者が①森林法に違反して計画より広く林地を開発②条例に従わず土砂を繰り返し搬入して盛り土を造成③産業廃棄物も混入――していたことを把握したため、搬入中止を求める行政指導などを複数回行った。

 業者は指導に応じず、県と市は10年10月の協議で、増大する盛り土について「(崩壊すれば)住民の生命と財産に危険を及ぼす可能性がある」と判断。11年2月に土地所有者が代わったことを受け、同年3月17日の協議では「流出や崩壊の危険性があり、緊急の是正を行わせる必要がある」として行政指導より重い行政処分をする方向になった。

 処分は「県土採取規制条例」の6条に基づき、災害発生の恐れがあれば期間内に防止策を講じさせる措置命令を出すという内容だった。命令に従わない場合に行政が費用を肩代わりして撤去などをする「行政代執行」についても「必要ではないか」との意見が出た。

 協議をふまえて県と市は同年6月、業者に命令を出すと決めて市長が決裁し、業者に弁明を求める告知をした。だが、告知後に業者側が排水路などを設ける防災工事を始めたことから、工事の継続を前提に命令を出さなかったという。

 ところが工事は同年11月に中断され、業者との連絡も困難になった。12年10月に新しい土地所有者側に対策を要請したが実現せず、条例には所有者を対象にした規定がないため法的措置も取られなかった。以降は盛り土が崩壊していないことなどを定期的に確認していたが、命令は発動されないままだった。

 朝日新聞の17日の取材に、斉藤栄・熱海市長は「今はお話しできないが、事実を明かしてみなさんにゆだねたい」、川勝平太静岡県知事は「行政の判断に対する意見はわかれると思うが、事実関係は今後公開する」と述べた。

 土石流災害の遺族らは先月、土地所有者らが安全対策を怠ったとして約32億円の損害賠償を求める訴訟を提起した。県や市を訴えることも検討している。(板橋洋佳、川嶋かえ)

静岡県と熱海市の主な対応(行政の内部文書などによる)

【2007~10年】

   造成業者が計画以上の盛り土造成

   土砂搬入中止などの行政指導

【11年】

2月 改善ないまま業者が土地を譲渡

3月 措置命令などの方針協議

5月 業者側と協議。防災工事は実施されず

6月 措置命令を決め、市長が決裁

7月 業者側が工事開始

11月 措置命令見送りに。その後工事が中断

【12年以降】

   定期的に盛り土を見回り

【21年】

7月 盛り土崩壊。土石流が発生