第4回リアル半沢直樹の世界どう伝える? 考え、たどりついた一番必要な事

前田健汰
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若者×記者が見る衆院選 違和感をたどって
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 支援者がずらっと並び、聞いたことのある国会議員や県議の名前が次々に出席者として読み上げられる。9月4日、参院山口選挙区の補欠選挙に出る立候補予定者の事務所開きのこと。「数こそが力」のリアルな政治の世界を見せつけられた気がして、また少し政治を遠く感じた。

 記者になるずっと前から、ごく一部の人たちだけで物事が決まっていく政治のスムーズさに疎外感を感じていた。正直に言えば、「私たち」が不在の政治は苦手だ。下手に笑い飛ばせない政治の雰囲気は、そのままとっつきにくい記事となって世に出て、入社前の私と政治との距離を遠ざけていた、と思う。

大事だけど…深く考えることなく記事に

 だが、入社して新聞記者になってみたものの、政治や選挙をどう書けば面白くなるかがわからない。毎日書いている記事は、「○○氏が立候補へ」「○○党が候補擁立を調整」「○○氏が事務所開き」といった感じ。大事ではある。だが、決まり事を追い続けるだけで深く考えることもない。

【連載】若者×記者が見る衆院選 違和感をたどって

選挙取材にあたる若手の記者も抱える、政治家の身近な生活との関わりの薄さ、政治へのとっつきにくさ。その源や正体を解き明かすべく、山口・熊本総局の4人の「若者×記者」が政治への違和感と向き合う企画です

 振り返れば、友人や家族と政治の話をしてこなかったし、関心もさほどなかった。若い人への「政治の届け方」なんて分からないまま仕事を続けている。

 普段は事件や裁判などのかたい話から、スポーツなどのやわらかい話まで取材している。地元で動きがあった同性パートナーシップ宣誓制度の取材で性的マイノリティーの当事者と仲良くなって漫画を借りたり、決して強くはない地元のサッカーチームでベテランがチームの意識を変えていこうと奮闘しているのを知ったり。人に出会い、今まで興味を持ってこなかった世界を身近に感じて、その大切さや面白さを伝える。こういう時、記者のやりがいを感じる。

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車内で原稿を書く前田健汰記者=山口市、金子淳撮影

 では、政治の話題はどうか。内容はなかなか難しく、身構えてしまう。実際は、コロナ禍での生活を支える給付金や支援制度、スポーツ振興も親の介護や子育ても、もっと言えば、今日の食事や明日の遊びに関わってくるのが政治だと、頭では分かっているのに。

 ただ、私には政治が見えない。閉じられた世界での議論や年配のおじいさんたちの力の比べ合い、といったところが、自分が感じてきた率直な印象だ。

市長が突然引退表明 垣間見たリアル

 最近、担当している山口市の市長選に向けた動きを取材するなかで、こんな出来事があった。

 はじまりは9月13日、定例の市議会で4期16年務めた現職の渡辺純忠市長(76)が突然引退を表明した。

 「まさか」と驚いていたところ、翌14日には、市議会で多数を占める保守系の市議団が、伊藤和貴副市長(63)に立候補を要請した。そのさらに2日後、副市長が市長の実質的な後継者として立候補を表明すると、いきなり市長選の大本命となった。

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山口市長選が告示され、ガンバロー三唱をする支持者ら=2021年10月17日午前9時36分、山口市、前田健汰撮影

 立候補の話題が表沙汰になる前の目まぐるしい動きに戸惑いつつ、保守系の市議の一人に声をかけた。

 「こんな感じで決まっていくんですね」。その市議はこう答えた。「何事もなく市政が続くのが一番だからね」

 まさしく、私が見えなかったリアル政治の世界を垣間見た気がした。こうして「内側」で決まっていくならば、投票で市長をえらぶ選挙はなんのためにあるのだろうか。政治に混乱がないことが大事なこともわかっている。ただ、どうしてもふに落ちない部分が残った。

 最も身近な市長を選ぶ選挙でもこうした「内実」があるとすれば、ずっと遠い場所にいて、暮らしや仕事とどう関係するのか分からない権力争いを見せられることも多い国会議員の選挙に「しっかりと関心を持って投票に行こう」と呼びかけても無理がある。

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自民党総裁選で党員票の開票作業をする党山口県連の職員ら=2021年9月29日午前9時37分、山口市大手町、伊藤宏樹撮影

読みたくなる記事って?境界線さぐってみた

 では、「若者は政治に関心がない」「何を書いても読まれない」のだろうか。私自身の心の中や、学生時代の友人たちのことを思うと、そんなことはないと思う。自分の経験や友人のSNSなどを参考にすると、首相の就任や組閣といった速報的なニュースは届いているように感じる。

 その一方で、若者の投票率向上をめざした企画や衆院山口3区の一連の経緯を書く記事など、政治の中心から少し広げたり掘り下げたりしていくと、途端に読まれている実感がなくなるのはなぜだろう。自分にも周りにも反応は届かず、サッカーの取材で出会った男子大学生からは、「『若者向け』とことさらに迫られると説教されているような感じを受け、逆に一歩引いてしまう」と言われてしまった。

 それなら、メディアが若者が関心を持ちやすいように政治を分かりやすく、面白い原稿に落とし込む努力を怠ってきたのか。政治はもともと、若者を引きつけるコンテンツになりえないのかもしれない。

 まだまだ政治に違和感があり、向こう側にある政治の世界に染まっていない記者の一人として、若い人が政治の記事を読もうとしてくれる「関心の境界線」を探ってみたい。

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前田健汰記者のボイスレコーダー=山口市、金子淳撮影

 まずは、この読まれている実感のなさはどこから来るのだろう。新聞社に入って選挙取材へと踏み出した自分と、政治には関心があるがメディアの外側にいる同世代と、興味・関心の同じ部分と違う部分を探ってみようと考えた。

「反論がこわい」「こういうもんだ、という雰囲気が強い」

 最も身近なところで、いまはメーカーで働く高校・大学時代の男性の友人(25)に話を聞いた。友人はツイッターで教師の残業問題や教員免許更新の報道についてはよくつぶやく。でも、ほかの社会課題はあまりつぶやかないことが気になっていた。同じ社会のニュースのうち、自ら発信しようとするテーマとそうじゃないテーマの線の引き方を聞いた。

 教員免許を持っている友人にとって、よく知っている「教員」の話は発信できても、かたく窮屈になりがちな政治の話のほとんどは、浅い知識では発信できない。「思うことはあっても反論がこわい」のが一つ。「『政治はこういうもんだ』という雰囲気が強く、気軽に疑問の声を上げにくい」とも。これは政治に特有の問題かもしれない。

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市役所の階段を駆け上がる前田健汰記者=山口県防府市、金子淳撮影

 では、政治を伝えるメディアの側に問題があるのか。政治の原稿でよく書かれる政治家同士の駆け引きは「遠い世界で面白くない」。ドラマであるが「駆け引きでいうと『半沢直樹』はわくわくして面白いのにね」と続けた。

 視聴者は半沢直樹に感情を移入し、応援するような感覚でドラマを楽しむ。でも、権力を手中に収めようと政略を尽くし、どんでん返しもある政治には感情が動かされず、むしろ政治との距離の遠さを改めて感じてしまう。似ている部分があるのに、これほど「見え方」が違うのは、伝え方の問題かもしれない。

 次に、以前の勤務先の北海道で知り合った、大学で学生メディアを運営する大学院生の男性(24)に聞いた。男性も偶然、今回の衆院選で若者の関心のありかを探ろうとしていた。

 「情報があふれる社会で、整理して届ける存在が必要と考えてメディアを始めた」という。でも、政治には多くの論点があり、過不足なく伝えるのは難しい点で考えは重なった。

 やはり、関心が持てない人に政治を届けることは難しいのか――。学生相手のメディアでは、学内のコロナ対応の記事は読まれ続けているという。「生活に身近な話にできたとき、記事は読まれる。かゆいところに手が届く存在になれれば、むしろメディアと政治の相性はよいのかもしれない」。生活に近い形で遠い存在の政治を見せる工夫が必要だということで、意見の一致をみた。

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前田健汰記者のパソコン=山口市、金子淳撮影

 もともと政治に関心はなかったけれど、ふとしたきっかけで面白さに気づいた女性が地元山口県にいた。下関市で若者への選挙啓発活動を行う下関市立大3年の才原麻衣さん(21)だ。

 活動を始めたきっかけは今年3月、下関市の市長選で同年代の存在をほとんど感じなかったことへの違和感だった。活動を始めて数カ月、友達を誘ってみると「そんなことに興味あるんだ」と驚かれ、「意識高い系」のレッテルを貼られることもあった。

 それでも、才原さんの目を通して見る政治の世界は新鮮そのものだったという。自民党総裁選でいきなり女性が2人出る目新しさ。候補者のYouTube配信を見て、父親と世代を超えた意見交換をする楽しさ。あまり難しくは考えず、自分から政治とつながろうとし、才原さんは自分なりにわくわくできるポイントを見つけた。

見えない政治 少しでも「見える化」するには

 コンテンツとしての政治は、見方次第で魅力的なものになるかもしれない。たとえば、「見えない」政治の世界を少しずつでも「見える化」していく。それを若者の暮らしに近い形で見せることで関心の琴線に触れることができれば、同世代に届く選挙報道ができるのかもしれない。

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写真撮影する前田健汰記者=山口県防府市、金子淳撮影

 では、実際にどうすればよいのか。私よりずっと先に、政治と社会をつなぐ問題を考えてきた「時事YouTuber」のたかまつななさんに話を聞いてみた。

 若者と社会問題をつなぐ会社を設立し、政治家へのインタビューや政治現場の取材をネット上で発信し続けている。2018年から約2年半NHKにも在籍して、メディアの中も知っている。

 若者が感じている「投票に行って何が変わるの?」といった無力感を解消するには何ができますか――。

 たかまつさんは「若い人の中に成功体験がないからでは」とぽつり。服装や髪形を制限する「ブラック校則」を変えられた! など小さくてもいいから、おかしいと思ったことを変える体験が政治につながっていくという。

 政治を「見える化」することは大事だけれど、何を見える化させるかで、意味合いがまるで違うと、たかまつさんは考える。たかまつさんがマスメディアにいた時、「多いな」と感じていた政局報道。これは、ある種の政治の現状を伝える一方で、本当に大事なことを曇らせる。例えば、自民党総裁選でメディアは候補でもない安倍晋三氏を追い続けた。「誰が勝つのかを追って何をしてくれるのかが見えない」と。それでは本当の意味での「見える化」にはならないだろう。

 ここで、私や私たちの政治報道を考えてみる。一番必要なことは、政治家を逃がさず答えさせることではないか。どこに問題意識があり、どこをどう変えようとしているのか。メディアの側が「こういう時ははっきり言わないものだから」などと「政治の常識」をくみ取っていては変わらない。

 せっかく一次情報に当たれる立場がありながら、私も「この人はどうせ答えないだろうな」と諦めている時がある。私たちメディアが「政治の常識」に付き合い過ぎていることが、政治を「見える化」しきれない理由ではないだろうか。

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総局で原稿執筆中の前田健汰記者=山口市、金子淳撮影

暮らしと政治が近づく原稿 1本でも2本でも挑戦したい

 ドラマ「半沢直樹」の真骨頂はどんでん返しである。今回、私もその一端を取材した衆院山口3区の保守分裂騒ぎでは、10回も当選を続けてきた河村建夫さんだったが、自民党総裁選を経て一気に戦況が変わり、衆院へのくら替えに挑んだ林芳正さんの陣営に追い詰められていった。最終的に河村さんは引退に追い込まれ、その様は、まさに「リアルな政治」そのものだった。

 こうした政局報道は、私たちが選んだ政治家や政権が、次にどう動くのかを読み解いていくうえで、伝えていくべきニュースだと思う。ただ、若い人に「これ、知っておいた方がいいよ」とおすすめしようとは思わなかった。きっと話が大きすぎて、同じ世代の暮らしや興味・関心に引き付けて考えることができなかったからだと思う。

 大きいニュースを追いかけつつ、小さくても面白そうなことをすくい上げる。大きい話を細かく刻んで、食べやすい形にする。時に、消化しやすく、口当たりもよくして、ニュースを捉え直して伝えていく。「これが知りたかった!」と言ってもらえるように。

 若者たちの「関心の境界線」のありかは何となく分かった。本当に大事なことを「見える化」させ、若者の暮らしや関心事に政治ニュースを近づけようと工夫してみる。19日に衆院選が公示されるが、結果が出た後もそこで終わりではない。選挙戦とは違う「普段の政治」が始まっていく時にこそ、政治と私たちを近づける原稿が必要になる。(前田健汰)