映画作家・想田さん「民主制の基本に立ち返るとき」

聞き手・中村尚徳
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 【栃木】「熱狂なきファシズム」。2012年12月に第2次安倍政権が誕生してまもなく、そんな言葉が僕の脳裏に浮かびました。

 急に熱くなって全体主義になるのではない。じわじわと知らない間に低温やけどのように、ファシズムが広がっていく。そんな事態が進行しているように感じたし、それは今でも現在進行形だと思うんです。今度の選挙では、その進行を食い止められるかどうかが、非常に重要なポイントになると考えています。

 この9年間を思い返してください。異例の値引き契約で結ばれた森友学園への国有地売却問題、安倍晋三・元首相の友人が理事長を務める加計学園に獣医学部新設が認められた問題。公文書の破棄や改ざんが発覚し、国会では虚偽答弁が繰り返されました。

 17年、野党は臨時国会の開会を要求しましたが、政府与党は憲法に反して拒み続けました。3カ月間も引き延ばしたあげく、ようやく開会した臨時国会を冒頭で解散しました。なのに与党に大勝させてしまったのが前回の総選挙でした。

 昨年9月、菅義偉政権が日本学術会議が推薦した会員候補の一部を任命拒否した問題も同様です。民主制の土台となる憲法を為政者が守らない。法的に非常に疑義のあることを強行してしまう。政治家も最初は恐る恐るルール違反をしていたかもしれません。でも、主権者が容認し黙認してきたことで、だんだんと平気になってきた。

 突然、こんな無法な政治になったわけではなく、政治家によるルール違反を主権者が不問にしてきた結果だと思うんです。

 菅さんは官房長官時代、記者会見で本当にまったく質問に答えないスタイルを貫きました。質問に答えるのが仕事なのに答えなくても許される。許されるどころか、総理大臣になってしまいました。新しい自民党甘利明幹事長は16年に金銭授受問題で閣僚を辞任しました。説明責任を果たさなくても選挙で致命傷にならず、一定期間を経て要職に起用されました。

 民主的なルールのもとでは許されないような政治家の行動や政策が繰り返され、主権者が容認・黙認する。本来あってはならないことが積み重なりました。このままでは、民主制とは名ばかりの、別の政治体制になっている、という未来も予想されます。そうなったら、もう引き返せません。

 いま、民主制とは何かという基本に立ち返る必要があると思います。国王や皇帝に決めてもらうのではなく、自分たちのことは自分たちで決めようというのが民主制です。1億人の主権者がいれば1億人で決めていく。選挙はその重要な機会です。政策や政党、候補者を吟味し、1億分の1の責任を果たしていきたい、と僕は考えます。

 今度の選挙では、各党がどんな世の中をつくっていこうとしているか、具体的な提案に注目しています。民主的な価値に基づき、一人一人の人間が大事にされる。一部の人だけでなく、みんなが生きやすい社会をつくる提案を望みます。(聞き手・中村尚徳)

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 そうだ・かずひろ 1970年、足利市生まれ。映画作家。日米を往復し、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーを制作。監督作品に「選挙」「精神0」など。著書に「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」などがある。