第1回非正規社員 出社し続けた末 心は崩れた
今年1月に仕事を失った東京都の女性(47)は9月、漢字の勉強を始めた。就労移行支援事業所の部屋で窓際の席に座り、高校生レベルの漢字をA4用紙が真っ黒になるまで書いていた。今月、漢検の準2級に一発合格した。
「何もしないと家にこもり、どんどん壊れていく感じがした。外に出て勉強に集中し、余計なことを考えたくなかった」。パソコン、サービス接遇、メンタルヘルスの検定にも挑むなど、頭を使うことで心を保っている。
コロナ禍は、私たちが直面する現実を浮き彫りにし、置き去りにされた課題を可視化しました。31日の衆院選投票日、人々は何を託そうとしているのでしょうか。私たちの現在地を写真でお伝えします。
30代から派遣スタッフとして働き、3年前から都内のタワーマンションに常駐する管理会社の派遣事務員だった。1回目の緊急事態宣言が出された昨春、ともに働く正社員3人はテレワークになったが、非正規の女性のみ許可されなかった。「どうして私だけ。怒りしかなかった」
在宅勤務の住民が増えたことで、騒音やたばこ、ペットのクレームが相次いだ。同僚からの助けも少ない中、入手困難なアルコールやマスクの備品を発注しながら、1人での対応は限界に。午後5時半の終業時間に帰れず、2、3時間の残業が日常になった。
精神的に追い込まれた結果、昨夏に出社できなくなり、会社を退職した。医師の診断結果はパニック障害。まともに食べられず、眠れない。1日5種類の薬が欠かせなくなった。
月20万円前後あった収入の半分ほどの傷病手当金で一人暮らしを続ける。8万円の家賃は母親が負担している。
衆院選の各党の公約には、非正規の経済的支援や派遣法の見直しなど雇用の安定も掲げられている。女性は「私たちのような弱い人のリアルな現実を見る努力をしてほしい」。求人情報を見られるようにはなったが、まだ働くには不安が残る。時折、1日2万歩のウォーキングで心身を整え、前を向こうともがいている。(長島一浩)
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