「悪さ加減が少ない方を」 衆院選、どうやって票を投じるべきか

2021衆院選

聞き手・向井光真
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 【京都】4年ぶりに実施される今回の衆院選をどう見たらいいのか、有権者はどんな基準で候補者を選べばいいのか。日本政治に詳しい識者2人に聞いた。(聞き手・向井光真)

「岸田氏の個性が見えにくいのかも」 大嶽秀夫・京大名誉教授

 ――今回の総選挙の争点や特徴をどう見るか?

 新型コロナウイルスの感染者が減っているなか、コロナ後を見据え、財政出動が大きな争点だ。国民はコロナで悲鳴を上げている。政府に何とかしてくれという気持ちが強い。

 ――解散から投開票日まで17日間と戦後最短だ。

 野党に統一候補を立てる余裕を与えず、先手を打つ戦略だろう。自民党は生き延びる力のある政党。野党には厳しい日程だ。

 ――4日に誕生した岸田文雄内閣は、野党の選挙戦にどう影響すると見る?

 失点がはっきりあるわけではなく、野党は戦いにくいのではないか。岸田首相の言う「新しい資本主義」などは言葉が先行し、実態が分からない。利益誘導で大幅な財政出動をする従来パターンを踏襲し、国民に明るい期待を持たせたい姿勢が見える。国民側もコロナ疲れで、それへの期待がある。ただ、発足直後の支持率は岸田内閣は高くない。岸田氏の個性が見えにくいのかも知れない。

 ――野党側は対自民での存在感を示せているか?

 第2次安倍晋三政権以降は「安倍1強」が続いた。野党はスタンスを明確化できず、「迷走する野党」だった。戦後の枠組みで言えば、自民党と旧社会党の対立があり、冷戦終結後は新しい対立軸ができないままでいる。さらに、小泉純一郎内閣が進めた改革路線と、守旧路線との対立の中で、自民党内部の自己革新の力が大きかったため、かえって野党側が守旧路線とみなされた。野党はいまだに新しい改革の旗印を持てないでいる。

 ――有権者は何を判断材料にすべきか?

 野党の動きをよく見極めてほしい。与党が何をやるかは分かりやすい。野党がどう再編されるかは、将来にわたり非常に重要なので注目すべきだ。特に立憲民主党国民民主党がどう手をつなげるかがポイントだ。共産党がどう出るのか、日本維新の会がどういう動きをするのかなどをきめ細かく見るべきだ。

 ――岸田氏が新総裁に選ばれた自民党総裁選をどう見たか?

 穏当な結果と思う。実質は河野太郎氏と岸田氏の2人の戦い。強力な派閥のバックがあったわけではなく、パーソナリティー(個性)で勝負した格好だ。

 自民党は後継者を育てない政党になった印象がある。安倍元首相も菅義偉前首相も、後継者育成への意識は薄かったと感じる。

 一方で首相の権力は強くなった。かつては派閥体質の中で政策が決まっていたのに、首相官邸が決めるようになった。安倍氏や菅氏に対抗する人がほとんどいなくなり、次の政権を目指して運動する後継者はいなかった。

 かつては、派閥の対立の中で政治家が鍛えられ、首相候補者は常に数人いた。だが、選挙制度改革で1996年の衆院選に小選挙区制を導入して以降、派閥が徐々に解体され、後継者を育てる機能を失った。

 ――伊吹文明氏ら、ベテラン議員の引退表明が与野党で相次いだ。

 世代交代の時期で、岸田氏ら新しい世代のリーダーに代わる過渡期。政治家は激務なので、長くやるのは大変だ。

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 おおたけ・ひでお 京都大名誉教授。1943年生まれ。専門は政治過程論。著書に「戦後政治と政治学」「日本政治研究事始め 大嶽秀夫オーラル・ヒストリー」など。

「攻め込まれる前に選挙ということだろう」 吉田徹・同志社大教授

 ――解散から投開票日まで17日間。戦後最短だ。

 選挙期間が短いほど与党に有利。攻め込まれる前に選挙ということだろう。野党が争点化するには時間がかかる。期間が短いと、与党が投げた争点に、野党側が対応しないといけなくなる。十分な情報をもとに吟味できないと、有権者は理性的な選択ができにくい。

 ――岸田文雄政権をどう見る?

 総選挙で善戦すれば安倍晋三氏らから「親離れ」して好きなことができ、岸田カラーが前面に出る可能性がある。思ったほど勝てなければ、2A(安倍氏と麻生太郎氏)の影響力が残る。過去の自民党の首相は派閥の支援か選挙での勝利がないと脆弱(ぜいじゃく)だった。

 ――野党にとって岸田政権は戦う相手としてどうなのだろうか?

 一長一短だ。岸田氏は菅義偉政権で閣内におらず、無傷。また「再分配」「新自由主義からの脱却」などの主張は、野党の政策がかぶる部分があり、戦いにくい。ただし、安倍氏と麻生氏の影響力が強いのだとすれば、「何も変わっていない」「安倍・菅直系内閣」と攻めやすい面もある。

 ――野党の現状をどう見る?

 勢いに陰りがある。日本の野党は、旧社会党などの中道左派社会民主主義路線と、(競争や効率を重視する)新自由主義路線の潮流がある。両集団が一緒にならないと大きな勢力にならず、政権交代にたどりつけない。今は社会民主主義路線を民主系ががっちり押さえているが、その分、中道に広がりを欠く。無党派層に浸透できるかが鍵だ。

 ――野党4党(立憲民主党、共産党、社民党れいわ新選組)は共通政策に合意した。

 固定支持層の「岩盤リベラル」に向けたアピールで、一般有権者には訴求力を欠く。国民民主は、立憲民主ではないという点が存在理由になっており、一緒に行動すれば自分の影が薄くなるので、乗れなかった。日本維新の会は政治的指向性が違う。

 ――京都では野党共闘が進みにくい現状だ。

 過去の選挙を見ると、京都1、5区は野党が一本化できれば議席を取れる状況だった。ただ、有権者にとって心理的な忌避感が高い政党は共産と公明と言われている。例えば、共産が強い選挙区で共産候補を野党統一候補にした場合、民主系支持者は票を入れにくい。投票しないか、自民などに入れる可能性がある。逆に、民主系が強い選挙区で民主系を統一候補者にした場合、共産支持者は律義にその候補に票を入れるだろう。行動が不均等になる。

 ――どうすれば野党共闘が進む?

 共闘するなら、共産が関与するのはどの部分で、党の政策のどの部分を実現するのかを、野党側が有権者にきっちり示すべきだ。野党各党の代表がまず政策論争し、党員らが参加できる公開予備選をやったうえで政策集を作り、政権構成を含めた形で有権者に提示するのも今後の選択肢のひとつだろう。

 ――有権者は何を基準に投票すればいいのか?

 自身にとってベターな選択肢を考え、そこに投票する政治的リアリズムを持つべきだ。政治学者の丸山真男は、福沢諭吉の言葉を紹介し、「政治的な選択とは〈中略〉悪さ加減の選択」と言う。「悪さ加減」がより少ない方を選ぶ。政治ではベストな選択は難しい。

 ――学生には投票についてどう話しているか?

 投票率が低いのはあなたたちの責任ではないと言っている。投票率が高ければ、その国の民主主義が良いという相関関係もない。政党や政治側が魅力ある政治を作れず、参加したいと思わせる舞台を作れていないためだ。ただ、投票権があるのだから、なぜ自分は投票に行くのか、行かないのかを突き詰めて考えなさいとも言っている。

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 よしだ・とおる 同志社大政策学部教授。1975年生まれ。専門は比較政治。著書に「ポピュリズムを考える」「『野党』論」「アフター・リベラル」など。

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