探る、民主主義の現在地 米歴史家ウッダード氏や宇野東大教授が議論

鵜飼啓
【動画】今、民主主義を一から考える
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 国際シンポジウム「朝日地球会議2021」(朝日新聞社主催)はオンラインで開催され、3日目の19日、パネル討論「今、民主主義を一から考える」を配信した。アメリカの歴史家でジャーナリスト、コリン・ウッダードさんが米メーン州ポートランドからリモートで参加し、日本を代表する政治学者の一人で東京大学社会科学研究所教授の宇野重規さんが登壇した。日米両国の状況を中心に、世界の現状をふまえつつ、今、民主主義はどうなっているのか、何に注目して、どういう方向を目指すべきなのかを探った。

 昨秋の米大統領選で結果を覆そうとする動きが出るなど、民主主義が行き詰まったかのような事態が各地で起きている。米ジャーナリストで歴史家のコリン・ウッダード氏と、宇野重規・東京大学教授(政治学)が坂尻顕吾・本社政治部長の司会で現状を議論した。

 米国では1月、落選を受け入れないトランプ氏の支持者らが連邦議事堂を襲撃する事件が起きた。ウッダード氏は「民主的に自治を行うという米国の革命的な実験は(南北戦争があった)1860年代以来の危険にさらされている」と危機感を示す。

 ウッダード氏は、建国期の入植者の流れに注目し、米国内に特性の異なる「国」(ネーション)が存在すると唱えた著書「11の国のアメリカ史」(邦訳・岩波書店)で注目を集めた。現在の分断の背景に今も続くこうした地域特性があるとして、「独立宣言で示された理想を核に結束してきたが、こうした理念が揺らぐとほかにまとまる要素がない」と語った。

 これに対し、宇野氏は日本の政治体制そのものは安定しているとする。半面、英調査機関が毎年発表している「民主主義指数」で日本は21位にとどまり、「不完全な民主主義」に分類されかねないレベルだったことを挙げ、「『安定』というよりも、多くの課題に直面せず、問題を先送りすることで『停滞』を続けている表れという可能性もある」と懸念を示した。

 コロナ禍で問題も浮き彫りになった。ウッダード氏は、4500万人以上が感染し、70万人超が死亡した米国について、州レベルでの対応の違いが被害を拡大した要因の一つ、との見方を示した。個人の自由と「公共の善」のバランスについて地域的な差があったためだ。宇野氏は、日本では政治指導者が政策を説明し、国民の理解を得た上で進めるというプロセスが欠けていたとして、「民主主義の観点から大きな問題を抱えていた」と見る。

 ただ、宇野氏は、ニュージーランドアーダーン首相メルケル独首相ら、コロナ対応が高く評価された指導者と比較することで、自国のリーダーが適切に対応したかどうかを市民一人一人が考えるきっかけとなった、とも指摘。「政治社会があるべき基本の姿、民主主義について深く考えたと思う」と述べた。

 一方、世界に目を向けると中国が国際的な存在感を増し、ロシアも権威主義色を強める。民主化したはずのハンガリーやポーランドでも権威主義政権が台頭した。ウッダード氏は、米大統領選にロシアが影響力を及ぼそうとした疑惑などに触れ、「米国やほかの自由民主主義国の弱点を突き、社会の抱える矛盾を広げようとしている」と警戒感をのぞかせた。

 民主主義の歴史を研究してきた宇野氏は、民主主義の危機はこれまでも繰り返されてきたとして、「より長期的に見ると、多様な声を反映し、修正していく能力を持つ民主主義の方が最終的に優位性を持つ」との見方を示し、「日本や世界の各地が多様な可能性をそれぞれ実験し、成果を世界で共有していくべきだ」と訴えた。鵜飼啓