第2回土地神話が生んだ「時代の寵児」 中国一の大富豪に上り詰めるも…

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井上亮
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恒大集団トップの実像 窮地の中国不動産王②

 中国南部・広東省の省都広州市中心部から車で30分ほど。緑豊かな団地内を歩いていると、9月下旬でも最高気温が35度に迫る南方特有の蒸し暑さがいくぶんやわらいだ気がした。

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中国の国内総生産(GDP)の2%にあたる約2兆元もの負債を抱えて経営危機に陥った不動産大手・中国恒大集団と、創業者である許家印氏の実像を伝える連載です。2回目では、恒大が従業員8人の小さな会社から中国一の不動産会社に成長するまでの軌跡を追います。「原点」とも言えるマンション群を訪れて見えてきたものとは…。

 私が訪れたのは、「金碧花園」。経営危機に陥っている中国不動産大手「中国恒大集団」が、1997年に初めて開発したマンション群だ。

 中国では日本のマンション開発とは規模が異なる。ゲートと壁で囲まれた広大なエリアの中に、マンションが何棟も建てられ、商店なども入った一つのコミュニティーがつくられる。

 金碧花園には、20~30階ほどある高層マンションがひしめくように立つ。その1階部分にはスーパーや八百屋、飲食店、雑貨店などが並んでいる。不動産仲介業者のサイトによると、総戸数は5千戸を超える。

 私は団地内を歩いた。夕方になると、電動バイクの後部に子どもを乗せて帰宅する親や、散歩する高齢者など、都市部ではどこにでもある風景が見られた。

 広場のベンチに座り、スマートフォンで動画を見ていた高齢の男性に声をかけた。男性は80歳で、息子夫婦と孫と一緒に約100平方メートルの部屋に住んで十数年になるという。

 「団地内に幼稚園、すぐ近くに小学校があり、子育てには便利だ」と笑った。確かに、孫とみられる小さな子どもをベビーカーに乗せて歩く高齢者が多かった。

 別の住民の女性(70)は、ここの部屋を買ったのは2000年。当時は1平方メートルあたりで4千元(約7万1千円)だったという。

 中古物件の平均的な価格から考えると、女性の購入した物件は、今はおよそ10倍の価値になっている。

 女性は「あなたも家を探しているならここを買うといい。スーパーや飲食店が多くて便利だ。中古物件が出たらすぐに売れてしまうよ」と話した。

 私は、「でもここは最近、経営危機と言われる恒大が開発したマンションですよね? 心配ないですか?」と話題を恒大に向けてみた。

 女性は「ニュースは見たけど、中古の物件なら全く問題ないわよ。個人間の取引だから」という。

 不動産価格が上昇してきた中国では、マンションの部屋を買って転売すれば大きな利益を生むことができる。こうした値上がりを見込んで、個人が住まないのにマンションの部屋を複数買うことは珍しくない。

 この金碧花園は、恒大を一代で築き上げた創業者・許家印にとって、「原点」といえる場所だ。

金碧花園を足がかりに大きくなり始めた恒大。記事後半では、許氏がスピードを重視する経営哲学を基礎に、改革開放の波に乗って恒大を成長させていく過程に迫ります。

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連載恒大集団トップの実像 窮地の中国不動産王(全3回)

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