失敗の背景「コピペ」の20年 原発の不祥事、元東電社員として思う

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編集委員・大月規義
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アナザーノート 大月規義編集委員

 算数が苦手なのに、微分積分をマスターしようとしている子をみたら、何と声をかけようか。ほかに得意の教科があるはずと、励ましたくもなる。東京電力ホールディングスの記者会見を聞きながら、そんなことを思った。原発の正しい管理に20年近く取り組んでいるのに不祥事が絶えない。10年余り前の大事故では、いまだに1万人以上がふるさとへ帰れずにいる。

 今年に入り東電の柏崎刈羽原発新潟県)では、テロ対策に関わる深刻な問題が相次ぎ発覚した。原発を操作する「中央制御室」へ、他人になりすまして入った運転員の問題と、核防護施設の侵入検知設備の故障に長期間気付かなかった問題だ。

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 原子力規制委員会は3月、「重要度・赤」(レッドカード)という前代未聞の判断をし、是正されるまでウラン燃料など核物質の取り扱いを禁じた。

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テロ対策不備を検査するため、東京電力本社に入る原子力規制委員会の職員=7月13日、東京都千代田区

 半年たった9月22日、東電は規制委に問題の原因報告と改善策を提出し、オンラインで記者会見を開いた。

 原因の調査は、元高検検事長ら第三者による独立検証委員会が担った。検証委は原発に携わる東電の役職員約4千人にアンケート(回答は匿名)した。「東電の経営層・管理層が核セキュリティー(保安)と、その他の利益のどちらを重視していたと思うか」

 回答結果は次の通りだ。

①核セキュリティーを重視(どちらかというとも含め):63.4%

②その他の利益を重視(同):21.0%

③双方が同等に考慮:15.6%

 さらに②の「利益重視」と答えた役職員に、そう感じる理由を複数回答で聞いた。すると……。

 核セキュリティーに十分な人員が確保されていない(53.2%)▽必要な資金が投入されていない(41.3%)▽保安設備の性能を下げてでもコスト削減しようとすることが強く推進されている(15.8%)――。こうした経営姿勢の見方だけでも問題の根は深いが、実際に「上司からその他の利益を優先するよう指示を受けた」というのが1.6%。逆算すると約13人いた。

経費削減は大成功

 東電の核防護設備を請け負っていたのは「日本原子力防護システム」(原防)という東京・虎ノ門の会社だ。大株主はセコムで、東電も20%出資している。ホームページには「原発をテロの脅威から守ります」とある。

 検証報告書によると、東電は2015年度、柏崎刈羽原発にある防護設備のリース代などで原防に約13億円を払った。その後、設備を買い取る契約に切り替え、20年度の支払いは1.3億円と10分の1にした。経費削減としては大成功だ。

 一方、収入が減った原防は18年10月、東電本社で原発事業の実務責任者を務める「原子力・立地本部長」に窮状を訴える。「大幅な赤字になり要員を縮小せざるをえない」。だが、東電は、要員減への対策を検討しなかった。

 翌19年、原防は要員をそれ…

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