「ダチョウ博士」はアホに恋して極めた賢者

有料会員記事

土井恵里奈
[PR]

「まだまだ勝手に関西遺産

 アホ、不潔、凶暴。そんなダチョウにハマり、いつの間にか大学のガクチョウ(学長)とシャチョウ(社長)になった。

 身長約2・5メートル、体重約160キロ。世界最大の鳥は恐竜の迫力だが、おつむは弱い。神から知恵を授けられなかった残念な生き物として聖書に登場するくらい、聖なるアホだ。

不潔・ええ加減・支離滅裂

 脳は目や生殖器より小さく、群れやつがいの存在も忘れる。うんこはつけっぱなし。「ダチョウはアホチーム。こんなええ加減でよう生きてきたわ」。京都府立大学の塚本康浩学長(52)、通称ダチョウ博士はそう話す。研究して四半世紀。「支離滅裂で規則性もないことが分かった」。何年飼っても顔を覚えてもらえず、隙あらば蹴られる。

 賢くないのに生き延びたのは生命力のおかげ。カラスにつつかれ血まみれでも平然とエサのモヤシを食べる。アホは風邪をひかないとばかりに、体力の回復が超早い。ずばり、免疫力が高いから。それをいち早く突き止めたのが獣医師の博士。免疫の源の抗体を卵から取り出し、マスクやスプレーに使ってコロナ禍で注目を浴びる。

不登校→工場勤務→学長 ダチョウ博士に聞く 鳥それぞれな生き方

ダチョウはもの覚えが悪いけれど、能天気。インコは賢いけれど嫉妬深い。様々な鳥がいるように、人の生き方もそれぞれでいい、と京都府立大学の学長は語ります。飛べないダチョウの卵を世界に羽ばたかせた学長の、紆余曲折の跳躍人生を追いかけます。

惚れた弱みからの研究

 最初はそんなことは分からなかった。ただ、飼ってみたかった。駆け出しの獣医師だったころ、堅気には見えない客のおっさんが大型の生き物を手なずけているのがうらやましかった。2LDKの自宅では飼えないが、大学でなら――。心おきなく飼うため、研究することにした。

 大学で買う理由を聞かれると「鶏の伝染性気管支ウイルスの解明につなげたくて」と答えた。好きだから飼いたいという下心がばれぬよう、知的で小難しい言葉を並べた。

 アホでパワフルな鳥の秘密に迫るには頭脳だけでは無理だった。脱走すればアメフト部員が追跡。元警察勤めの警備員がカウボーイさながら投げ縄式でなんとか捕まえた。博士も卵を取ろうとしては雄に追われ全力疾走、最強の雄「ラオウ」に跳び蹴りをくらってひざを骨折した。

右腕は3K担当の弟子

 研究の救世主は、弟子の「足立くん」こと足立和英さん(42)。獣医師界の3K担当を自負し、研究のためなら大阪のドブ川に潜る肉体派は、ダチョウのキックと糞尿(ふんにょう)の波状攻撃にめげず白衣をボロボロにして働く。かつてはコイの環境ホルモンを研究、エジプトの元兵士やインドネシアの留学生と組み、売れない芸人さながらヘドロまみれで日の目を見ない実験に明け暮れていた。ドロ舟覚悟の研究の相棒としての素質を博士に見込まれ、スカウトという形でつり上げられた。

 インドネシアでの鳥インフルエンザの抗体実験は、防護服は綿製のペラペラ、下半身を守る無菌パンツもないまま危険な実験をする博士を助けた。丸腰の局部で挑む難局なのに、「終わったらナシゴレン食べに行きましょ」。のんきな弟子に救われ、実験は成功した。異国の地で陰で動いてくれたのは、かつて足立くんとドブ川にいたインドネシア人留学生だった。泥水をすすった者同士の絆が役立った。

 2008年には抗体医療の大学発ベンチャーを設立、博士は社長になった。翌年には、これまでの研究成果が認められ文部科学大臣賞を受賞した。

安い早い多い

 ダチョウはドロ舟どころかドル箱だった。抗原を注射すれば勝手に卵を産む。マウスから1グラムの抗体を取り出すには数億円、ダチョウ卵は10万円。大阪の大衆食堂並みに安い早い多い。

 金の卵とあれば、瞳に$マークをぎらつかせた有象無象の人が寄ってきた。武器密輸のうわさがある投資家はうさんくさく、投資に失敗し会社と豪邸を失ったIT系元金融マンには生ガキでもてなされた。学会に突如角刈りのスーツ男が現れた時は「スパイか」と警戒し、夢でうなされた。

 昨年学長に就任してからさらに忙しい。こんなに多くの人と関わるなんて、昔は考えられなかった。

記事後半では、不登校だった少年時代の出来事、流れ作業の工場勤めをへて獣医になった経緯を語ります。関西が誇る番組「探偵!ナイトスクープ」のたち上げ人の応援メッセージもあります。

■火事場のアホ力…

この記事は有料会員記事です。残り1823文字有料会員になると続きをお読みいただけます。