内村に「土下座して謝りたい」とまで思わせた男 世界体操で大技披露

山口史朗
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 「米倉に土下座して謝りたい」

 東京五輪(オリンピック)の鉄棒で落下し、予選で敗退した体操の内村航平が発した言葉だ。

 米倉とは? 五輪の本番しかご覧になっていない人は、その発言を聞いた瞬間、もしかしたら誰のことか分からなかったかもしれない。

 今回の東京五輪では、団体メンバー4人のほかに、日本が国として獲得した個人の出場枠が一つあった。

 その1枠を巡り、内村と最後まで激しく争ったのが、跳馬のスペシャリスト米倉英信(徳洲会)だった。

 米倉も「五輪に出場すれば金メダルが取れる」と言われていた選手だった。内村は「米倉の分も金メダルを」と誓って出場したがかなわず、申し訳なさから「土下座したい」という言葉が出たのだった。

 その米倉が20日に北九州市であった世界選手権の予選で、世界最高難度のDスコア6・0の技を披露した。

 その名も「ヨネクラ」。東京五輪のために、磨きに磨いた大技だ。

 地元の福岡県開催で「注目されてパワーが出た」。助走の前、左足をちょん、ちょん、ちょんと小さく3回上下させ、スタートのタイミングを計るのが高校時代からのルーティンだ。

 勢いよく駆けだしてロイター板をけり、体をひねりながら着手。伸身姿勢のまま宙返りする間に、さらに2回半ひねる。着地は右足が1歩前に出るだけにとどめ、14・933点。2本目もDスコア5・6の「ヨー2」をミスなくまとめ、この時点で2位。決勝進出を確実にした。

 内村との五輪代表争いは、米倉にとって大きな財産になった。

 岡山・関西高から、多くの有力選手が集う順大や日体大ではなく、地元の福岡大に進んだ。「体操界で一番のホークスファン」を自認し、好きなお酒焼酎。生粋の九州男児だが、選考が続いた約3カ月間は、極力お酒も我慢した。

 6種目に取り組むより、数秒で終わる跳馬が性格的に合っていると言う。一瞬の爆発力と集中力で「キング」を最後の最後まで追い詰めたのだった。

 そんな内村との代表争いを米倉はこう振り返る。「航平さんと競り合ってきたのは、今後の大きな試合や人生においても強みになる。誇らしく思います」

 言葉通り、初の世界選手権でも堂々たる演技。それでもまだ、着地などに修正点はあるという。24日の決勝へ向け、「予選よりもまとめて、金メダルを取れるように頑張りたい」と宣言した。山口史朗