懐古趣味じゃない、劇場型民俗博物館 真価は芸術祭のあとに問われる

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田中ゑれ奈
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 2度目の奥能登国際芸術祭に際して、石川県珠洲市に誕生した「スズ・シアター・ミュージアム」がにぎわっている。地域の家々から集められた民具を主役に、民俗学と現代アートが融合した「劇場型民俗博物館」。一過性の芸術祭の目玉に終わることなく、地域資源としていかに継続していけるか注目したい。

 どこからかガタピシ物音が鳴り出すと、夜の砂浜に潮が満ちる。運動会の音楽に民謡や祭りばやし、古いピアノの旋律に導かれて、やがてモノたちが息を吹き返す。白黒テレビにオープンリールのテープ、ランドセルや吹き流し付きの扇風機が代わるがわる語るのは、いつかの家族の記憶だろうか。

 会場は海辺の高台に立つ旧小学校の体育館。アリーナ型の空間全体に巨大な蔵のように民具が配置され、スロープと観覧席に囲まれた中央には、古代の地層の砂を敷き詰めた美術家・南条嘉毅のインスタレーション「余光の海」が広がる。数十分に一度上演されるプログラムの音楽を作曲家・阿部海太郎、特殊照明を美術家・鈴木泰人、空間設計を建築家・山岸綾が担当。入れ子状に点在する展示空間では、南条のほか7組の美術家が、民具を使ってそれぞれ作品を構成している。

 懐古趣味が売りのテーマパークではない。年代もさまざまな日用品や漁具・農具といった民具は、2020年春から約半年間のプロジェクト「珠洲の大蔵ざらえ」で、市内約70軒の蔵や倉庫から収集されたものだ。一つひとつに分類タグが付けられ、用途や時代背景の詳細な解説もある。民具はアート作品の素材でありつつ、それ自体が展示資料というわけだ。

 一方、普通の博物館ではあり…

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