給食前に消毒、ついたて 待機児童ゼロでも保育士確保は「争奪戦」

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瀬戸口和秀
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新型コロナの感染防止のため、ついたてを設けた机で給食を食べる園児ら=2021年10月4日午後0時1分、大阪府豊中市の幼保連携型認定こども園、瀬戸口和秀撮影
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 大阪府豊中市にある幼保連携型認定こども園「神童幼稚園」。給食の時間に合わせて4歳児のクラスを訪ねると、園児の手を保育教諭がスプレーで消毒していた。隣との距離を取った机には大型クリアファイルで作ったついたてがあり、園児らは黙々と食べ始めた。

コロナ禍のいま

コロナ禍を経て、観光や保育、畜産、町工場といった現場がどう変わり、何を望むのか。大阪のいまを取材した。

 園児約370人を預かり、保育教諭約50人が働く。コロナ禍の前は机をつけて食べていたが、昨春からいまの形に。当初は周りの子に話しかけて注意される園児もいたが、「慣れて静かに食べるようになりました」と女性保育教諭(25)は話す。

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コロナ禍前の2019年9月に撮影された給食の様子。園児は机をつけて食べている(写真の一部を加工し、園児の顔をぼかしています)=大阪府豊中市、同園提供

 市立桜井谷こども園では、8月から遊戯室を「おしずかレストラン」として給食を取るようにした。園児が向きあわないように席を配置し、クラシックなどの穏やかな音楽を流す。市の担当者は「どの園も消毒作業や体調管理を徹底している」と話す。

 豊中市には4月現在、保育所やこども園が136施設あり、定員8767人、利用児童数8494人と、府内の中核市7市の中で規模が2番目に大きい。

 待機児童が府内で最多のときもあった。2015年は253人と大阪市より36人多く、全国の自治体でも17番目の多さだった。

 市は都市公園での民間園の開園を支援するなど定員拡大を進め、18年までに定員を2500人以上増やし、同年に待機児童0人を達成。以来4年連続で「ゼロ」が続く。府内全体でも10年以降は12年の2050人をピークに減少傾向で、158人まで減った。

 「待機児童ゼロ」は第2次安倍政権が12年に発足した翌年、成長戦略の柱として掲げた。15年に打ち出した「新3本の矢」で、「希望出生率1・8の実現」を盛り込み、施設整備を加速。全国の待機児童は同政権発足前の2万4825人から5634人まで減った。

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待機児童数の推移

 待機児童対策が進む一方、保育士らの確保は「争奪戦」の様相を呈す。府内の保育士の有効求人倍率は高い水準で推移し、8月は3・41倍と、全職種の0・99倍を大きく上回る。

 神童幼稚園長で、豊中市内の約90の民間園が加入する「豊中こども財団」の北川定行理事長(64)によると、新しい小規模保育施設が多くできたため、既存園の保育士の確保が厳しくなり、費用がかかる人材紹介会社を利用する園もあったという。

 市内の民間園で新たに働く保育士らを支援し、園側の人材確保も支えようと、豊中市は応援手当として年24万円(最大3年間)を20年から支給する。保育士・保育所支援センターも16年に立ち上げ、再就職を目指す人も含め求職を支え、就職支援や保育士試験対策のセミナーも開いた。

 他の自治体でも支援策を掲げる。守口市は民間園に新卒で入った保育士らに事業者と折半で採用年度に計40万円を補助する。交野市は民間園の保育教諭を、箕面市は保育士を目指す学生に月2万円を支給。八尾市は、飲食店やジムで特典が受けられるパスポートを民間園の保育士らに配る。

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ついたてを設け、向きあわないように席を配置した遊戯室で給食を食べる園児たち=2021年10月6日午後0時3分、大阪府豊中市、瀬戸口和秀撮影

 背景に保育士らの賃金の低さがある。国は民間園の保育士の賃金水準を引き上げてきたが、国の賃金構造基本統計調査(20年)によると、平均月給は約25万円と全産業の平均より約8万円少ない。

 国は17年度から経験7年以上の保育士に月4万円を加算する制度を始めた。ただ研修の一部の修了が23年度から必要で、「時間に追われる保育士には負担が大きい」「研修に人を出す余裕のない園もある」との声が保育現場などから上がる。

 保育士の職場環境を巡っては新型コロナも影を落とす。部屋やおもちゃの消毒、体調管理といった対策で現場の負担、心労は大きくなっていると保育関係者は明かす。昨春は休園が続いてオンラインで新人研修を実施したが、園内での絆を築くのが難しく退職した人もいた、と別の関係者は打ち明ける。

 一方、豊中市が0~5歳児の保護者を対象に18年に実施した調査では、保育施設を利用したいというニーズが年々増える見込みになることが明らかになった。担当者は「保育士の確保はより厳しくなるのでは」とみる。

 北川理事長は「核家族化が進み、地域で子どもを見守る力が減るに伴って家庭で子どもを育てる力が弱まり、保育園側の負担も大きくなっている」と指摘。「『ハコ』ばかりがつくられてきたが、子育てを支えるために保育士らの待遇改善や園の体制を国にもっと考えてほしい」と話す。(瀬戸口和秀)

保育を巡る国や自治体の支援策の例

○保育所やこども園の整備交付金→国が事業費の原則2分の1(※3分の2)、市区町村が4分の1(※12分の1)を補助。設置主体の負担は4分の1

 ※は政府の「新子育て安心プラン」に参加する自治体の場合

○保育士・保育所支援センター設置運営→国が費用の原則2分の1を補助。実施主体の自治体負担は2分の1

○保育士宿舎借り上げ支援→国が費用の原則2分の1、市区町村が4分の1を補助。事業者負担は4分の1

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