コロナ禍で他者との関わり方が激変する中、「利他」という言葉に関心が集まっている。だが、「利他」は、その反対の意味がある「利己」にもつながっていると、政治学者の中島岳志さんは言う。いったいどういうことなのか。詳しく聞いた。
中島岳志さん略歴
なかじま・たけし 1975年生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専門は南アジア地域研究、近代日本政治思想史。
中島さんが共著者に名を連ね、今年3月に出版された『「利他」とは何か』(伊藤亜紗編、集英社新書)はこれまでに9刷、3万7500部(電子版を含む累計)を発行。好調な売れ行きだという。
「利他」とは文字通り、他人に利益を与えることだ。だが、中島岳志さんは「この本を出したのは、世の中で言われている利他が、僕たちの考えている利他とだいぶ違っていたからなんです」と話す。
新書は2020年2月、東京工業大学に新設された「未来の人類研究センター」の共同研究をまとめたものだ。中島さん、美学者の伊藤さん、批評家の若松英輔さん、哲学者の國分功一郎さん、小説家の磯﨑憲一郎さんの共著だ。
中島さんは利他的な行為に危うさがあると指摘する。「『他の人のことを考えて、その人にいいことをしよう』というのが利他のムーブメントだとしたら、それは利己でもあるんです」
「利己」は自分の利益を図ること。「利他」とは反対の意味のはず。なぜ、「利他」が「利己」につながるのか。
中島さんは、自らが教えてい…
【10/25まで】すべての有料記事が読み放題!秋トクキャンペーン実施中!詳しくはこちら