「自己責任論に縛られた弱者のたたき合い」 見えなくなる本当の敵
生活保護の受給者や生活に困窮する人に対し、「自己責任」という言葉が向けられることがあります。しばしば「弱い立場の人が、別の弱い立場の人を批判している」とも言われます。しかし、貧困支援の現場などを長く取材してきたジャーナリストの藤田和恵さんは、その構図が強調されることで問題の解決から遠ざかると指摘します。どういうことなのでしょうか。
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貧困の問題についての記事で、できるだけ書かないようにしてきたことがあります。それは、貧困の当事者を「批判する側」の心理です。
あおられた差別で強まったバッシング
生活保護制度や利用者への差別や偏見はずっと昔からありましたが、社会全体でバッシングが強まったのは、政治家やメディア、著名人など、権力や発進力を持つ側の人たちによるメッセージからでした。芸能人の母親の受給が「不正」かのように報じられ、「ナマポ」というネットスラングを使う政治家も現れました。そうして扇動された差別に、ネット世論が乗じた。決して、弱い立場の人同士の分断から生まれたわけではありません。
確かに、弱い立場の人が「自分より優位にある」と感じる相手を批判する現象は存在します。自己責任論による被害者とも言える人たちですら、自己責任論に縛られてしまっている。この1年半、コロナ禍の貧困の現場を取材していますが、ほとんどの人が「自分が悪い」と言います。
私はこうした人たちの自己責…