控訴棄却 「平穏生活権は不明確」と司法 住民側、上告を決意

原口晋也
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 長崎県佐世保市が計画する石木ダム(川棚町)事業の工事差し止めを求めた控訴審は、自分の選んだ土地で平穏に暮らすという住民の権利は「抽象的で不明確」と断じた長崎地裁佐世保支部の一審判決を踏襲して終わった。水は必要なのか、ダムがないと洪水を防げないのかといった点について司法は、またも判断を避けた。原告・弁護団は上告の意思を表明した。

 福岡高裁の法廷。「各控訴をいずれも棄却する」――。そう告げて引きあげようとする裁判長の背に、傍聴席から「何を審理したんだ!」と声が飛んだ。控訴人席で背筋を伸ばして判決を待った岩下和雄さん(74)はその瞬間、背もたれに身を預けた。

 判決では、平穏生活権を「抽象的で不明確、成立要件や法的効果も不明確」と退けた。さらに、住民側が8月の豪雨をもとに「100年に1度の大雨でも洪水は起きないと証明する新データが得られた」と、6月に結審した裁判の審理再開を裁判所に求めた申し入れには言及もしなかった。

 その一方、従来の裁判ではほとんど触れられることのなかった1972年夏の「覚書」に言及。県は地元の了解なしでダムは造らないとするこの書面を水没予定の3集落と交わして予備調査を始めながら、建設可能と判断すると約束を反故(ほご)にして手続きを進めた。住民が「裏切り」の証拠として記憶する文書だ。

 判決では、地元の理解はまだ得られていないとして覚書を踏まえ「今後も理解を得るよう努力することが求められる」と県に説いた。同時に、覚書で事業の継続は左右されないと釘を刺すことも忘れなかった。

 判決言い渡し後の報告集会には長崎や福岡の支援者約60人が詰めかけた。水没予定の13戸は抗議の座りこみを続けているため、住民は岩下さんだけだった。「覚書を踏まえ、県には話し合いを求めていく。上告もする。だが、裁判の結果には左右されない。我々の戦いは司法の場だけではないのだから」と語った。

 この日の控訴審判決を受け、中村法道知事は「第一審に引き続き、裁判におけるこれまでの県の主張が認められたものと受け止めている。石木ダム建設事業は、地域住民の皆様の安全・安心に直結する重要な事業であり、整備を急がなければならない。原告、控訴人は工事続行禁止を再度認めなかった司法判断を重く受け止めていただき、事業推進についてご理解とご協力いただきたい」とのコメントを出した。(原口晋也)