原発事故時の「最後のとりで」 住民の避難計画、実効性は?

2021衆院選

佐々木凌
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 東日本大震災福島第一原発事故の後、国内の原発はすべて停止したが、その後10基が再稼働した。前回衆院選からの4年間にも5基が再稼働し、茨城県東海村東海第二原発も新たな規制基準に適合すると認められ、再稼働をめざす。一方で重大事故が起きた時、安全に避難できるのかという住民の不安は消えない。(佐々木凌)

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 「首都圏も守られた」。3月18日、水戸地裁が日本原子力発電東海第二原発の運転差し止めを命じた判決を言い渡した直後、原告団が垂れ幕を掲げると、どよめきが起きた。

 首都圏唯一の商業炉で、半径30キロ圏には全国最多の約94万人が暮らす。住民らが起こした訴訟の主な争点は、耐震性など原発自体の安全性だった。だが、判決が重視したのは、事故が起きた際の避難態勢だった。

 避難計画の策定が義務付けられている30キロ圏内の14市町村のうち、策定しているのは5市町にとどまること、大規模地震による道路の寸断など、複合災害を想定した避難経路が設定されていないこと――。複数の理由を示し、住民が原発災害から身を守る「最後のとりで」となる避難態勢に疑問を呈した。

 2018年に運転開始から40年を迎えた東海第二は、新規制基準を満たすとして、20年間の運転延長が認められた。原電は22年12月の安全対策工事完了をめざしているが、判決が再稼働のスケジュールに影響を与える可能性もある。

 原発事故は他の災害と同時に起きる可能性がある。東京電力福島第一原発事故がそうだった。

 福島県と隣接する北茨城市自主防災組織の幹部を務める緑川亀之輔さん(76)は、10年半前の震災当日を振り返る。

 市内を南北に貫く国道6号は、津波による浸水でしばらく通行止めになった。弁当を買いに車で出かけたが、道路は地割れやくぼみが多く、引き返した。「地震や津波と原発事故が同時に起きたら、車で避難するのは現実的なのだろうか」。緑川さんは首をひねる。

 同市は30キロ圏外だが、仮に原発事故が起きれば隣接する高萩市の住民約5千人を受け入れることになっている。主な避難経路として想定しているのは国道6号だ。「津波なら近くの高台に逃げる。でも、原発事故は遠くに逃げなければならないのに、対策は十分なのか」。疑問は解けない。

 判決から半年以上が経った現在も、新たに避難計画を策定した自治体はない。東海村に隣接するひたちなか市の担当者は、要支援者への対応を課題にあげ、「避難の際の介助を誰にお願いするかを決めかねている」と話す。

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 政府は7月に公表した「エネルギー基本計画」の素案で、電力の安定供給や温暖化対策の観点から、安全性を前提に原発の再稼働を進める方針を示した。

 原発では、異常が起きても事故には進展させない、事故になっても拡大は防ぐ、というレベルに応じた対策を重ねる「深層防護」という考え方が基本だ。避難計画は5段階あるうちの最後の対策にあたる。

 政府は12年に防災基本計画を改訂し、避難計画策定を義務づける範囲を8~10キロ圏から30キロ圏に広げた。計画は国と地元自治体との協議会でまとめ、原子力防災会議で了承する手続きがあるものの、原子力規制委員会の審査対象外で、再稼働の法的な要件ではない。

 東海第二のように周辺住民が多い地域で避難となれば、大勢の人が一斉に動くため、計画に実効性を持たせるのが大きな課題だ。

 中部電力浜岡原発静岡県御前崎市)周辺では、計画の策定が義務付けられている11市町のうち、2市で計画ができていない。避難の対象範囲に住むのは約82万人で、東海第二に次いで多い。県の担当者によると、避難先に県外の都市部も含まれ、駐車場の確保が難しいことなどが理由だという。

 30キロ圏内に約45万人が住み全国3番目に多い中国電力島根原発松江市)は、今年9月に規制委の審査に合格した。避難計画も国の了承を得たが、中電の説明会では住民から「周辺の道路事情が脆弱(ぜいじゃく)だ」などと疑問視する声があがり、避難路を補う道路が必要とする意見が県議会でも出た。

 原発周辺の住民への調査の経験がある東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「複合災害の場合、行政から住民に情報をどう伝えるのかも課題だ」と指摘する。避難計画が原子力規制委の審査の対象外になっていることについては「事故は起きるものという前提に立てば、原発自体の安全対策と住民の避難計画はセットで考えなければ意味がない。避難計画も規制委の審査対象とすべきだ」と主張する。

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