無罪主張の会社側、遺影と聞いた遺族は怒り 軽井沢バス事故初公判

高億翔、遠藤和希 滝沢隆史
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 【長野】「事故は予想できなかった」。5年前に軽井沢町で発生し、大学生ら15人が死亡したバス転落事故の初公判で、業務上過失致死傷罪に問われた運行会社側の2被告は無罪を訴えた。待ち続けた公判を見つめた遺族は、閉廷後に記者会見し、憤りをあらわにした。

 「(死亡したバス運転手の)技量が未熟とは認識していなかった」「事故を起こすとは思わなかった」。

 午前10時半すぎに始まった公判の罪状認否で、運行会社長の高橋美作被告(60)と、運行管理者だった元社員の荒井強被告(53)は、弁護士から渡されたメモに時折視線を落としながら無罪を訴えた。2人とも紺色のスーツ姿だった。

 その後、検察側の冒頭陳述で高橋被告は、死亡した運転手への指導監督義務を怠ったと指摘された。これに対し、高橋被告は「業務の全ては経験豊富な荒井に任せきりになっていた」と主張。死亡した運転手が、直前の勤務先で大型バスの運転に従事していなかったことについても「聞いていない」と述べた。

 弁護側は運転手が事故当時、ブレーキ操作をしなかったという見方を示した。荒井被告は「(運転手がバスの)運転免許を持っていた以上、フットブレーキを踏まずに事故を起こすとは思わなかった」と説明。「(仲間から)『運転は大丈夫』という話も聞いていた。なんで(ブレーキを)踏まなかったのだろうという思い」とも語った。時折声が震える場面もあった。

 2人が検察官から事故の被害者を説明した資料を見せられ、うなずきながら説明を聞く場面もあった。罪状認否に先立ち、高橋被告は検察官のそばや傍聴席に座った遺族に向かい、「尊い命を落とされた皆様のご冥福をお祈りし、遺族の方々に心よりおわび申し上げます」とはっきりした口調で述べ、頭を下げた。(高億翔、遠藤和希)

     ◇

 「『知らなかった』では済まされず、また同じ事故が繰り返される。とても受け入れがたく、憤りを感じる」。大学2年の寛さん(当時19)を亡くした遺族会代表の田原義則さん(56)は、閉廷後の記者会見で悔しさをにじませた。

 寛さんの遺品のネクタイを締めて臨んだ。「息子と、二度と悲惨な事故が起こらないようにすると約束した。一緒に来ているつもりで、背中を押してもらいたいと思った」という。

 公判の冒頭で高橋被告が述べた謝罪の言葉について「責任逃れをしていて、まったく心のこもっていない謝罪だ」。両被告に「厳罰を求める気持ちは当然ある」としつつ、「裁判で明らかになった事実をもとに、現状の再発防止策に足りない部分がないかの議論につなげたい。なぜ組織として事故を防げなかったのか、納得できる説明をしてほしい」と求めた。

 大学1年だった息子の大谷陸人さん(当時19)を亡くした慶彦さん(56)は陸人さんの遺影をしのばせて公判を見つめた。事故後、初めて両被告を直接目にしたという。「2人から初めて聞いた言葉が『責任はない』。運転手1人に責任を転嫁している。きちんと責任をとってほしい」

 公判を聞き「ずっとずさんで、いいかげんな管理をしていた会社だと強烈に感じた」と怒りをあらわにした。「運転手の技能が未熟だったことを本当に知らなかったのか、知っていたのに責任逃れをするのか。被告らに直接聞いてみたい」と話した。

 死亡した西原季輝さん(当時21)の母親は「両被告はメモを読むだけで、自分の言葉で話しているようには思えませんでした。全てを運転手のせいにし、自分たちのミスを認める気はないとしか感じられませんでした。裁判で両被告の責任を明らかにし、人生を終えてしまった子どもたちに対しても、遺族やけがをした被害者に対しても、心からの反省の言葉をきちんと聞きたいです」とのコメントを出した。(滝沢隆史)

     ◇

●検察側の冒頭陳述(要旨)

 《高橋被告について》事故で死亡したバス運転手について、運転技量の把握・確認義務が尽くされていないことを認識しながら、事業者として自ら確認しなかった。運行管理者の荒井被告に対しても確認するように指導しないまま、運転手を従事させた。

 《荒井被告について》事故を起こした運転手について、大型バスの運転に必要な技量を把握確認せず採用し、運転業務に従事させた。事故が起こるまでのスキーツアー運転業務では、運行管理者として点呼や運転経路の具体的指示も怠った。

 《結論》両被告は、大型バス運転経験の少ない運転手の技量を把握する義務を認識しながら、それをせず、運転業務に従事させた。また、事故回避のための措置を動機づける程度の予見可能性があった。

 ●弁護側の冒頭陳述(要旨)

 《高橋被告について》死亡した運転手の技量については、運転業務を禁じるほどではなかった。適切な指導がなかったとしても、直ちに事故を起こすとは言えない。(高橋被告は)運転手が事故を起こすような技量だったとは聞いておらず、注意義務はなかった。運転手はバスが高速度に至るまでブレーキ操作を行わず、(そのためにバスが)減速しなかったと考えられる。運転手が基本的、初歩的な操作をしないことは予見できず、起訴内容と事故には因果関係がない。

 《荒井被告について》運転手はフットブレーキを的確に操作できなかった。(事故について荒井被告に)予見可能性がない以上、無罪を主張する。

軽井沢スキーバス事故をめぐる動き

 <2016年>

 1月 15日未明に事故発生

 12月 貸し切りバス業者への罰則を強化する改正道路運送法が成立

 <17年>

 6月 県警が高橋被告と荒井被告を業務上過失致死傷容疑で、死亡した運転手を過失運転致死傷容疑で書類送検

 7月 国の事故調査委員会が調査報告書を公表。バス会社の安全軽視を指摘

 <18年>

 1月 遺族会がバス会社側の起訴を求める署名を長野地検に提出

 12月 遺族らがバス会社などを相手取って損害賠償を求める訴訟を長野地裁に起こす

 <21年>

 1月 長野地検が高橋被告と荒井被告を業務上過失致死傷の罪で在宅起訴