全国金賞の指導者が語る、生徒と吹奏楽に向き合った日々

河原田慎一
写真・図版
2019年の全日本吹奏楽コンクールの様子。昨年は中止だったが、今年はライブ配信される。
[PR]

 全日本吹奏楽コンクール全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社主催)が、23日から始まる。初日は名古屋国際会議場名古屋市)で中学校の部が開かれ、24日に高校の部、30日には大学の部(香川県県民ホール)、31日の職場・一般の部(同)と続く。新型コロナウイルスの影響で2年ぶりの開催となり、今年は初めて、事前申込制の「ライブ配信」が行われる。事前専用サイト(https://www.asahi.com/brasschorus2021/wbandcompetition.html?ref=article)に申し込みをすれば、全国大会に選ばれた団体の卓越した演奏を、どこででも聴くことができる。

 愛知県日進中と日進西中で吹奏楽部を指導し、全国大会にたびたび出場して金賞を受賞した日進市立梨の木小学校教頭の清野雅子さんに、中学生と吹奏楽に向き合った日々について、語ってもらった。

     ◇

 子どもたちには、音楽が好きになってほしい、音楽を生涯親しめるものにしてほしい。常にそう思ってやってきました。私はクラシック音楽をずっとやってきた人間ですが、百年、二百年残ってきた作品には、普遍的なすばらしさがあります。それに触れることで、音楽の美しさや奥深さを体感して欲しいのです。

 中学に入って、ほとんどの子どもが初めて楽器を触ります。吹奏楽の管楽器は、人に聴かせられるようになるまで時間がかかる弦楽器よりは、取り組みやすい。そして、中高生の可能性は無限大。練習を重ねれば、びっくりするほど上達します。

 ピアノ専攻だった私は、管打楽器が専門でないだけに、生徒に「えげつないほどの要求」を出してきたと思います。自分の求めるオーケストラの音色と表現に近づくべく、生徒とああでもない、こうでもない、とやってきました。

写真・図版
2019年の全日本吹奏楽コンクールの様子

 そのうち、生徒たちがCDを聴いて「誰々の指揮の演奏はこうだった」と話し合う。オーケストラのスコアを全員に渡すことで、自分の楽器がオーケストラの中でどんな役割をしているのかなどを、生徒が理解していきます。中には交響曲のホルンパートを「耳コピ」する生徒や、「非和声音が解決しそうでしないところ」などに注目する生徒もいます。スコアを見るのが面白いと感じる生徒も出てきました。

 部活動という側面から見ても、吹奏楽は非常によい経験になると思います。異なる年齢の子どもが集団生活で毎日を過ごす中で、共同作業の難しさを知ります。学年に関係なく、自分の役割を全うし、責任を持って取り組むことの大切さを学びます。

 同じ目標に向けて一生懸命にやらないと、聴く人を感動させることにはつながりません。悔しいことも、楽しいこともありますが、何よりもこの時期に、「一生懸命やる」経験が、子どもたちを大きく成長させるのです。

 特に今年は、新型コロナウイルスの影響で、合奏練習などが非常に難しかったと思います。私はいま、一般の部の団体を指揮していますが、緊急事態宣言中は練習が全くできませんでした。個人で練習しても、団としてのサウンドは成長しません。人数を絞って練習できるようになり、分奏の組み合わせを変えながら、少しでも合奏に近い形で練習できないか日々探っています。

10月23日から、第69回全日本吹奏楽コンクールが始まります。感染症対策の一環で入場券の一般販売は見合わせになりましたが、全部門の演奏がインターネットを通じて初めてライブ配信されます。申し込み専用サイト(https://www.asahi.com/brasschorus2021/wbandcompetition.html?ref=article

 コンクールは久しぶりに人前で演奏できる機会。やはり人前で演奏すると集中力もテンションも上がります。私は昔からコンクールの自由曲に、クラシック音楽を中心に選んできて、「それでは金賞を取れない」とほかの先生から言われたこともありました。でも、コンクールは音の迫力だけが評価されるのではありません。金賞という「勝ち」を狙うよりも、音楽を楽しむことの方が大切です。舞台に臨む前には、生徒たちに「自分たちの音楽を奏でよう。やってきた音楽しか出せないんだから」と言ってきました。

 今年はさらに、「ライブ配信」も始まります。これまで演奏会に足を運べなかった人にも、吹奏楽を懐かしんでもらったり、「今度は生の演奏も聴いてみたい」と思ってもらったりするチャンスだと思います。

 吹奏楽に打ち込んだことのある人には、吹奏楽から離れてしまっても、どこかで知っている音楽が流れてきたらぜひ昔を思い出してもらいたい。音楽の奥深さを知った人は、学ぶことがまだまだあります。出会った生徒たちには「音楽を一生楽しんで」と言いたいです。(河原田慎一)

写真・図版
清野雅子さん=本人提供