10年半「どれだけ人が戻るか」 帰還困難区域を巡った

2021衆院選

福地慶太郎
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 原発事故から10年半が過ぎたいまも、福島県内7市町村に避難指示が続く帰還困難区域は残ったままで、広さは東京23区の半分を超える。区域の中や周辺で汗を流す人たちに政治への思いを聞いた。

 衆院選が公示された翌日、20日午前7時過ぎ。JR双葉駅(双葉町)の真新しい駅舎は、朝日に照らされていた。駅周辺は昨春に避難指示が一部で解除されたが、水道などのインフラが整わず、町内に住む人はいない。

 午前7時半。駅で作業服姿の男性(70)と出会った。駅の西側の住宅団地の工事に携わるが、「どれだけの人が戻るのかねえ」とぼやいた。震災前、約7千人が町で暮らしていたが、昨年の調査で帰還を希望する人は1割にとどまる。

 男性は経済政策で与党への不満はあるが、「野党はあら探しばかり。与党のほうがマシ」と思う。ただ、「あんたら記者が頑張らねえと困るんだよ。国民のための政治をしてるか、政治家を追及しねえとな」。思いがけない言葉に、「はい」とうなずいた。

 午前8時5分ごろ、下り電車が到着すると、会社員の男性(56)が降りてきた。東京に家族を残し、南に約10キロ余り離れた富岡町で春から単身赴任中という。富岡の生活はどうですか。「きれいに整備されているけど、殺風景で、無機質な感じ。元の住民より僕みたいに仕事で来ている人が多い」。交差点で足を止めると、「国会議員には、正直者がばかを見ない世の中にしてほしい」と言った。

 午前11時半。駅前の広場で、ズボンに付いた草を両手で払う人がいた。双葉町から須賀川市に避難した造園業の高倉伊助さん(65)だ。帰還困難区域にある住宅を除染する前に、住民から状態が良くて残せる木がないか確認を頼まれ、茂みに入っていたという。

 衆院選について尋ねると、開口一番に「与野党の力を均衡させなきゃダメだ」。野党や少数派の意見が尊重されず、議論が足りないと感じる。福島第一原発の処理水の海洋放出も、「結論ありき」に見えた。

 帰還困難区域の広さは約337平方キロメートル。このうち双葉駅周辺のように優先的に除染し、具体的な避難指示の解除の見通しが立つ「特定復興再生拠点」(復興拠点)は8%だ。残りの拠点外について、政府は8月、住民が希望すれば土地や建物を除染し、2020年代に避難指示を解除する方針を決めた。

 午後1時半。拠点外を通る国道288号を車で走り、隣の大熊町に向かった。道路脇の家屋や道路は銀色のバリケードで封鎖され、「通行止め」の看板が立ち、人の姿もない。同じ帰還困難区域でも、工事ラッシュが続く復興拠点との落差を感じた。

 午後3時過ぎ、大熊町や双葉町で出会う人は除染や家屋の解体をする作業服姿の工事関係者ばかり。住民がいない。焦った。祈る思いで以前に取材した富岡町の坂本勝利さん(83)に電話すると、帰還困難区域にある自宅の片付け中だった。

 坂本さんの家や農園がある新夜ノ森地区も復興拠点に選ばれ、再来年の春に避難指示が解除される見込みだ。営農を再開するため、避難先の田村市からほぼ毎日通い、物置の整理などをしている。解除後は、麦の栽培に挑戦するつもりだ。パンやうどんなどの加工品にでき、風評の影響を受けにくいと思うからだ。坂本さんは「国に頼っても、しょうがない。自分でやらなきゃ」と言った。

 午後6時過ぎ、双葉駅に戻った。工事関係者の姿は消え、静寂に包まれていた。町の中心部は来年6月以降に避難指示が解除され、人が再び暮らし始める。頭上の一番星が、いっそう輝いて見えた。福地慶太郎

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