「分配」を問う トマト買えず、修学旅行費も出せない困窮家庭

小田健司
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 【福井】衆院選のキーワードの一つが「分配」だ。自民党総裁選以降、しきりに使われ始めたこの言葉。成長を目指すのはもちろんだけど、これからは成果をきちんと行き渡らせるよう配慮します――。少し前まで「自助」を求めていた政権は、優しい顔でそう言っているようだ。貧困に苦しむ人は、どう受け止めるのか。

 「持つ人はいくらでも持って、ない人はどこまでもない。選挙で変わると思っていません」。10月上旬、北陸地方に住む50代の女性は淡々と語った。

 女性が携帯電話で弁当の写真を見せてくれた。9月にあった中学2年の次男の体育祭の日のもの。揚げ物やパプリカが入り、ご飯には韓国のりがのって食欲をそそる出来栄えだ。

 だが女性は、やりきれない思いを抱えていた。

 「息子はトマトが好きなんですが、高くて手が出ませんでした」

 2度離婚を経験し、前夫とは死別した。子ども4人を育てたが、離婚した夫からの養育費はなかったという。今は次男と2人暮らし。昼は企業で、夜はレストランでアルバイトしているが、コロナ禍でレストランのバイトが激減。18万円近くあった収入は、数万円減った。

 子育てで使った複数のクレジットカードの支払いがかさみ、弁護士を通じて返している。長男を高校に通わせた際の奨学金やコロナ禍で受けた社会福祉協議会の貸付金などがあり、月に計6万円は返済にあてる。ほかに、家賃、光熱水費、携帯代……。月4千円の次男の修学旅行の積み立てができない。

 それどころか、給料が入った時も悩みがある。

 「支払いの順番を間違えると携帯が使えなくなったり、電気が止まったり。大変なことになるので、気を使っています」

 ドラッグストアで安売りされている豆腐や卵ばかり買う。支援団体から定期的に届く食品が命綱という。

 「悔しさはあります」

 専門学校で和洋裁を学んだが、就職に役立つような資格は持っていない。ハローワークや役所の窓口で何度も相談したが、正社員にはなれなかった。

 そんな生活に慣れ、自分自身はもう食欲が出てくることもほとんどない。でも、子どもに満足な食事をさせてあげられないのが歯がゆい、という。

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 賃金は下がり、非正規雇用は増えている。

 物価変動の影響を除いて賃金の動きを示す「実質賃金指数」をみると、2015年を100とした場合、00年は112・4だが、20年は98・6。総務省労働力調査から把握できる13~20年、新潟、富山、石川、福井の4県で非正規雇用者は9万人増えた。自民党政権に戻った第2次安倍内閣以降の時期に重なり、全国でみると180万人増えた。

 「雇用の調整弁」とも言われ、不安定な生活を送る人が増える中で、消費税率は5%から8%、10%と上がった。ガソリンは高騰し、食べ物は値上げされたり知らないうちに量が減ったりしている。

 一方、こんなデータも。東京商工リサーチの7月のまとめによると、上場約2400社のうち報酬1億円以上(21年3月期)の役員は544人。過去2番目の多さという。

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 「分配」をうたうのは、政権だけではない。立憲や国民なども大企業や富裕層への課税強化によって富の再配分を目指すという。

 貧困の現場を知る人はどうみるか。

 「これまでも分配の機能は日本にはありませんでした。今回はどうでしょう……」。福井県内で一人親家庭への支援活動をする「フルード」代表の木村真佐枝さん(49)はこう話す。

 自らがシングルマザーとなったのをきっかけに14年に活動を始めた。困窮世帯への食料支援も活動の一つだが、コロナ禍で対象家庭が増えているという。

 「非正規雇用の人がとにかく多く、養育費をもらえてもいない。突きつめるとジェンダー問題が根底にあるようで、分配を考えるうえでも、そこに向き合うことが必要だ」と木村さん。

 衆院選公示日の19日、フルードの支援を受けながら福井県内の公営住宅に子ども2人と暮らす40代のシングルマザーも取材に応じてくれた。

 介護事業所に勤める派遣社員。10月末には契約期間が終わるが、次の仕事は決まっていない。

 県民幸福度日本一――。福井でしばしば誇らしげに語られるランキングだ。自分も県民の1人だが、無関係な世界の話のように感じるという女性は、記者にこう問いかけた。

 助けてくれる家族も、知り合いもいない貧困家庭に、目が向けられる日は来ると思いますか?

 女性は、来ないと思っている。(小田健司)