喫煙者にβカロテンは危険 かえって肺がんを増やしたビタミンサプリ

酒井健司
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 ビタミンは生体内で合成できない微量な栄養素であり、不足すると健康障害が起きます。ビタミン欠乏症に対するビタミン補給は劇的な効果がありますので、他の病気に対してもビタミンに効果があるかもしれないと考えるのは当然のことでしょう。ただ、急性前骨髄球性白血病に対するビタミンAのような例外を除いて、ビタミン補充の効果ははっきりしません。

 とは言え、たいていの場合はビタミンを多少摂取しても大きな害はないため、なんとなく使われているのが実情です。ビタミン剤を売りたいメーカーの思惑も影響しているようです。ビタミンサプリメントはそれほど高価ではありませんし、仕事が忙しかったり食べ物の好き嫌いがあったりでバランスのよい食事ができない人もいるでしょうし、プラセボ効果ぐらいはあるでしょうから、一概には否定はしません。

 ただ、たばこを吸う人は注意が必要です。というのも、βカロテンのサプリメントが肺がんのリスクを増やすという研究があるからです。βカロテンは体内でビタミンAに変化するビタミンA前駆体で、緑黄色野菜に豊富に含まれています。食事からβカロテンを多く摂取している人に肺がんが少なく、またβカロテンには強力な抗酸化作用があることから、がん予防に役立つのではないかと期待されていました。

 そこで約3万人の喫煙者男性をβカロテンのサプリメントを接種する群とプラセボを摂取する群にランダムにわけて5~8年間かけてフォローアップするランダム化比較試験が行われましたが、予想とは反対に、肺がんを予防するどころかプラセボ群よりも18%多く肺がんが発生しました。喫煙者はβカロテンサプリメントを摂取しないほうがいいでしょう。まあ、肺がんになりたくなければビタミンサプリメントを避ける前に禁煙した方がいいのですが。

 食事からβカロテンをたくさん摂るのは悪くなさそうなのにサプリメントとして摂ると肺がんを増やす理由は明確にはわかっていません。βカロテンを豊富に含む食品はβカロテン以外の多くの種類の栄養素も含まれています。人の体は複雑であり、単一の栄養素だけを不自然に多く摂取すると有害な作用が生じるのかもしれません。

 海外、特に新興国では、安全性や有効性がほとんど検証されないまま新型コロナに対してビタミンCやビタミンDが使用されています。抗菌薬や抗寄生虫薬や抗マラリア薬とのセットにされていることも多いです。効果が証明された治療薬が使いにくい状況下で、「何か薬を使いたい」という患者さんの希望に対応するためには仕方がない部分はあります。しかし、βカロテンがかえって肺がんを増やしたという過去の事例を考えれば、ビタミンだから害はないと安易に考えない方がよさそうです。

 ※参考:Alpha-Tocopherol, Beta Carotene CancerPrevention Study Group, The effect of vitamin E and beta carotene on theincidence of lung cancer and other cancers in male smokers, N Engl J Med. 1994Apr 14;330(15):1029-35.(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8127329/別ウインドウで開きます(酒井健司)

酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。